9月21日、学研ココファン(以下・学研/東京都品川区)が東京都町田市で運営するサービス付き高齢者向け住宅(今年4月に学研が事業承継)で入居者が殺害された。現在捜査中であり、犯人等は本稿執筆時点では不明だが、ネットなどでは「防犯体制が問われる」「見守りが不十分」など学研側の不備を指摘する意見も見られる。しかし、これらの意見の中には病院や特養などとサ高住の違いを正しく認識していないものも多い。「サ高住は危険」といった誤ったイメージの定着を防ぐため、業界全体で正しい情報を発信する必要がある。
各種報道によると、この女性は9月20日の21時まで同じサ高住に入居する夫と一緒にいたことが確認されており、翌朝自室で死亡していたところを夫が発見。この間に見守りが行われていなかったことを問題視する意見がある。
見守りには限界も
施設との違い認識を
しかし、サ高住は「住宅」である。「施設」である特養や有料老人ホームと異なり入居者には民法上の居住権が発生し、入居者の居室には鍵が設けられている。つまり、たとえ学研のスタッフといえども、本人の許可なしに居室内に立ち入ることはできない。夜間に訪問介護を行うケアプランでもない限りは、学研の目が届かない時間帯が生じるのは当たり前のことであり、このことを問題視するのは全くの的外れだ。
また、このため入居者の見守りはセンサー類で行うのが一般的だ。しかし24時間入居者の行動を監視するのはプライバシーの点で問題があるため、「一定時間センサーに反応しなかった場合にスタッフに通知」などの仕組みであることが多い。結果として居室内で異変が発生してもすぐにそれが察知されないのは、サ高住である以上仕方がない。
サ高住は、法律的には賃貸住宅である。介護や食事などのサービスは任意だ。仮に介護中や食事サービス中に事故などで入居者が死傷した場合には、サービス提供者側に何らかの責任が問われるのは理解できる。
しかし、それ以外の時間帯に入居者が死傷した場合、サ高住の「大家(管理者)」が責任を負う必要があるのか、といった点についてはしっかりとした議論をする必要があるのではなかろうか。一般賃貸住宅の居室内で入居者が殺害されていた場合、オーナーや管理会社が責任を負うなどといった話は聞いたことが無い。
もちろん、学研をはじめ、サ高住の多くは「安心・安全の提供」を消費者にアピールしている点を考えれば、入居者が死傷した場合に運営者側として謝罪の意を示すのは自然であるし、学研も21日にホームページ上で五郎丸徹社長が「ご本人様、ご家族の皆さまに心よりお悔み申し上げます。入居者並びにご家族の皆様、地域の皆様に多大なるご心配をおかけしていることを深くお詫び申し上げます」とのコメントを発表している。
しかし、これまで述べてきたように、入居者が殺害されたこと自体については、少なくとも事件の真相が明らかになるまでは、安易に運営者の責任を云々するには疑問が残るし、「サ高住の安全性に問題」などと結論づけるには問題がある。
この件については次号(10月10日号)で更に詳しく検証する。
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