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介護の場と生活空間分離
高齢者施設では利用者の安全を確保するための見守りが不可欠だが、見守り強化はプライバシー低下につながるという難しい問題を抱えている。そうした中で、空間作りの工夫で見守りとプライバシーの両立を図ろうという考えがある。こうした考えの実践例などについて、9月11日に開催されたセミナーを元に紹介する。

 

 

このセミナーは、NPO法人NPO環境持続建築(東京都港区)が大阪市で開催した「目からうろこの空間づくり」。
京都大学大学院の三浦研教授は「施設を『見守りやすい』という視点で設計すると、だだっ広い空間の中で1ヵ所にまとまって利用者に過ごしてもらいがち。しかし、それは利用者にとって居心地のいい空間だろうか」と問題を提起した。

 

「見通せる空間にいる、ということは、利用者はスタッフからも他の利用者からも常に見られている状況であり、プライバシーもないし落ち着きません。スタッフが位置を少し変えることで、壁や柱がある空間でも利用者を見守ることができます。そうすれば、少人数や1人で過ごすことができます」

 

 

ケア効率より居心地
高齢者施設の設計を大建met(岐阜市)の平野勝雅代表は、自分が設計をした高齢者施設を例に「建物内に利用者の居場所をどう作るか」を解説した。

 

例えば、岐阜県瑞穂市のグループホーム「もやいの家瑞穂」(運営・社会福祉法人新生会/同池田町)は2ユニット18室の居室を壁に沿ってグルリと設置し、中央部分をリビングなどの共用スペースとした。スタッフの効率を考えて導入した案だという。ただし、このままだと利用者のプライバシーは確保できない。そこで家具などで空間を仕切り、小さなリビングを複数設けた。これにより利用者は自分の好きな場所で過ごすことが可能となった。 また、仕切る家具の高さは1メートル強とし、椅子に座っている利用者の目線では家具などで囲まれていると感じられるようにしながら、スタッフは家具の上から利用者の様子が把握できるように工夫している。

 

この例からもわかるように、同じ広さの空間でも部屋の数が多い方がプライバシーは保たれる。入居者の居室においてそれを実践したのが、やはり大建metが設計した特養「風の街みやびら」だ。広島県庄原市の社会福祉法人東城有栖会が同市内で運営している。

 

この特養の特徴は、平屋の戸建住宅が集まったような姿をしていること。各「住戸」は約5平米の居室と約7平米の居室の2間からなる。
「特養の居室面積基準は10・65平米ですが、これを2室に分割しました。介護をする上で最低限必要な面積は7平米と考え、それ以外の面積を別の部屋として確保しました。このことで生活空間と介護空間を明確に分けることができ、プライバシーも保たれます。入居者の中には5平米の部屋を客間として活用している人もいます」

 

このように介護事業者側の都合ではなく、入居者の居心地を考えた空間づくりを行うことの重要性が認識されるようになってきている。しかし、これは「必ずしも設計時点から作り込まないといけない」といった大掛かりなものではない。講師として登壇した、ベネッセスタイルケアで施設の設計・プロデュースを行っている加藤イオ氏があるエピソードを紹介した。

 

「ある施設の窓際に、スタッフの誰かが置いた椅子が入居者の憩いの場になっています。朝食後にコーヒーを飲んだりと一人でゆっくり過ごしたい人、特に男性入居者に人気があります」

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