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---第98回 介護施設を取り巻く法律問題の今---

賃貸人の地位の移転について

「新しい家主は知らぬ」と

 

被相続人死亡で建物所有権移転

今回は、相続による所有権移転に伴い、建物賃貸借契約の賃貸人たる地位が移転している場合の注意点などについて、解説していきたいと思います。

 

建物賃貸借契約において、賃貸人の地位を移転する場合には、原則として、賃借人の承諾が必要となります。もっとも、賃貸している建物の所有権が移転する場合には、特段の事情のない限り、賃借人の承諾を必要とせず、賃貸人の地位も移転することとなります。

ここで、被相続人の死亡により、相続人が建物を相続した場合であっても、建物の所有権が移転したこととなるため、賃貸人の地位も相続人に移転します。

 

このような場合に問題となるのは、相続人が新たな賃貸人となっているにもかかわらず、賃借人がこれを認識していないときです。例えば、新賃貸人が賃借人に対して、賃料の支払い請求を行った場合、賃借人は、自分が知っている賃貸人ではないことを理由に賃料の支払いを拒絶できるのかという問題があります。

この点、新賃貸人が賃借人に対し、賃料の支払いを請求するためには、賃借人の賃料の二重払いの危険の防止のための確実な証明として、新賃貸人は所有権の移転につき登記を必要とすると判断した判例が存在します
(最高裁判例昭和49年3月19日)。

当該判例からすれば、賃借人としては、賃借している建物について、登記上の所有者に対し、賃料の支払いを行っていれば問題はないということです。
したがって、先程の例においては、仮に賃借人として自分が知ってい

る賃貸人ではないことを理由に賃料の支払いを拒絶しようとしても、新賃貸人が登記上の建物所有者であれば、当該新賃貸人から賃料支払いの請求を受けた場合にはこれに応じなければならないことになると考えます。

 

今後は、相続により建物の所有権が移転しているにもかかわらず、賃借人としては、新賃貸人を認識せず、いきなり賃料の支払いを請求される可能性も考えられます。賃借人としては、まずは、建物の登記上の所有者が誰であるかを確認することが重要なので、この点については覚えておいて損はないと考えます。

 

 

弁護士法人ALG&Associates

執行役員・弁護士 家永 勲氏

【プロフィール】
不動産、企業法務関連の法律業務、財産管理、相続をはじめとする介護事業、高齢者関連法務が得意分野。
介護業界、不動産業界でのトラブル対応とその予防策についてセミナーや執筆も多数。

 

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