スポンサーリンク

 

 

 

跡見学園女子大学観光コミュニティ学部 鍵屋 一教授に聞く

 

「福祉施設の防災対策では、都道府県や市区町村で公表しているハザードマップをチェックし、自分たちの施設の立地特性やハザード(危険性)をしっかり把握しておくことが重要です」。防災専門家で福祉行政の現場にも詳しい鍵屋一・跡見学園女子大学教授はこのように指摘する。鍵屋教授に高齢者施設における防災への取組、BCP策定の方向性を聞いた。

 

 

 

――高齢者施設の防災対策の現状は。

鍵屋 高齢者施設を含む福祉施設は、どのような災害でも限られた職員で入所者や利用者の避難誘導などの対応を迫られます。施設によっては、介護度の高い人など自力では避難できない多数の高齢者を、安全な場所に迅速にどう避難させるのか、あるいは避難は行わず施設で乗り切るかなどを考えなくてはいけません。

 

高齢者施設などは従来から「消防計画」「防災計画」を作成し、それに基づいた避難訓練を実施してきました。これに加えて2017年から、浸水想定区域や土砂災害警戒区域内の「要配慮者利用施設」に、新たに「避難確保計画」の作成と避難訓練が義務づけられています。

 

 

――昨年は豪雨災害が相次ぎ、避難確保計画や訓練の重要性が再認識されている。

鍵屋 高齢者施設では過去にも甚大な風水害被害が生じています。こうした経験を踏まえ、要配慮者利用施設における避難確保計画の策定が義務化されたのですが、現状は3割程度にとどまっています。国土交通省は法律制定の5年後にあたる22年をめどに、策定率100%を目指しており、まずはこの達成が当面の課題といえます。

 

風水害を前提にした避難訓練も義務づけられましたが、介護度の高い人などがいる施設の場合、訓練内容は制約されます。夜間避難や通信・ライフラインが途絶した環境など実際に起こりうる状況も想定した訓練が有効ですが、高齢者には過大な負担になる恐れがあり、実践的な訓練を実施できるか、悩ましい問題です。

 

 

 

「福祉防災計画」策定を

――BCPはどのように考えるべきか。

鍵屋 消防・防災、避難確保、福祉避難所そしてBCPの4つを総合して私は「福祉防災計画」と呼んでいます。高齢者施設に対しBCPの策定は法律で義務づけられていませんが、停電・断水対策を中心とした計画の策定を推奨する通知を厚生労働省が出しています。

 

被災後の施設運営に必要な衛生管理、食事や物資の確保、さらに施設が使用不能になった場合の代替施設や受入先なども想定するべきです。逆に被災を免れ利用できる施設で福祉避難所の指定を受けている場合、通常の事業継続に並行して地域の被災者などを受け入れていく手順や業務をあらかじめ考えておく必要があります。

 

 

――福祉防災計画の作成ポイントは何か。

鍵屋 避難時から被災後の生活や事業復興まで、地域との連携が欠かせません。各施設には、高齢者を含めた災害弱者を地域全体でいかに支えるか、地方自治体や地域との連携を視野に入れることが求められます。行政側も市区町村単位の防災計画に加え、地域包括支援センターごとに防災プランを検討するなど、地域という「面」全体の福祉防災計画を考えることが大切です。

 

 

―― 在宅高齢者の防災・BCPはどのように考えるべきか。

鍵屋 自治体には「避難行動要支援者名簿」の作成が義務付けられていますが、個人情報の扱いなど運用上の課題もあります。また高齢者側に立てば、日常の支援者が災害時も支援者になることが望ましいでしょう。そうした状況を踏まえると、災害時も、地域包括支援センターや社会福祉協議会が中心となり、民生委員や自治会・町会、介護サービス事業者などが現場で在宅高齢者を支えていく構図が考えられます。

 

 

――具体的な支援活動は誰が担うべきか。

鍵屋 16年の熊本地震などの被災地では、地元の社協が中心となった「地域支え合いセンター」がすぐに立ち上がり、安否確認、被災者に必要な支援内容のアセスメント(評価)、ボランティアの受け入れなどを担いました。高齢者に限って言えば、平常時の地域包括ケアシステムに災害時の支援機能をもたせることも有効です。

 

ただ、最近の地域包括支援センターの役割の多さを考えると、人員や財政的な補強が必要でしょう。もう一歩進んだ取組として、「個別支援計画(災害時ケアプラン)」の策定が注目されています。現在、兵庫県丹波篠山市がモデル事業を推進しており、ケアマネジャーや相談支援専門員が日常のサービス等利用計画(介護保険、障害福祉サービス)を作る際、地域の自主防災組織や自治会などと災害時の避難の個別支援計画も作成しています。

 

 

――中長期的にはどのような取組が必要か。

鍵屋 近年、「何十年に1回の豪雨」などと言われるようにハザードの度合いが急速に強まっていますが、「想定外」を排していかなくてはなりません。場合によっては、施設自体の移転など大がかりな安全確保も検討するべきです。

 

例えば、90年代の「ゴールドプラン(高齢者保健福祉推進10カ年戦略)」の初期に建てられた施設が更新時期を迎えますが、危険な地域に位置する場合、この機会に移転も一考です。地方ではコンパクトシティの動きが活発ですが、こうした更新時期を見越して福祉施設を安全な中心市街地に誘導するなど、街づくり施策からのアプローチもあります。施設の安全化と合わせて市街地の活性化・効率化も期待できます。

 

もう1つの重要な点は「高齢者標準」で防災を考える姿勢です。総人口に占める高齢者割合や高齢者施設数を考えると、社会の基準を高齢者に置いた取組が、今以上に求められると思います。

 

 

 

 

この記事は有料会員記事です。
スポンサーリンク

この記事が気に入ったら
フォローしよう

最新情報をお届けします

Twitterでフォローしよう