関西でも新型コロナウイルス(以下・コロナ)感染が拡大している。高齢者住宅においては、感染予防・拡散防止に万全を期しておきたい。厚生労働省は2月24日に介護保険最新情報として居住系サービス事業所のコロナ対策について通知を行った。これを受けて、実際に高齢者住宅運営事業者はどのような対策をとっているのか調査した。
入居者のADL・QOL低下懸念
調査対象は大阪・京都・兵庫の2府1県で高齢者住宅(有料老人ホームないしサービス付き高齢者向け住宅)を運営している14事業者。来館者、入居者、スタッフに対してどのような対応を行っているか、3月2日に調査書を送付し10日を期限に回答してもらった。なお、コロナの感染状況は日々変化しており、現在は対応内容が変化している可能性については注意されたい。
見学については一部制限で対応
①対来館者
入居者の家族や知人の面会に何らかの制限をかけているか否かについては、「全面禁止」が最も多いものの、「人数や時間を制限」「予約なしの訪問不可」という回答もそれぞれ複数あり、回答は割れた。
「入居検討者の見学」については「人数・時間・見学場所の制限」が「全面禁止」を大きく上回っている。逆に「外部のレクリエーション講師の出入り」については「全面禁止」が「人数・時間・回数を制限」を大きく上回った。入居検討者の見学禁止は入居率という収入を左右する数値に直結するが、外部レクの中止は経営には直結しないため、差が生じたものと思われる。
「取引先企業の出入り」は対応が割れた。機器や備品の整備・補充などは運営に必要であるため、工夫をしながら対応しているのが現実のようだ。
内覧会や開所式については頻繁に行うものではないので、無回答(特別な対応はしていない)が多かったが、回答した事業所の殆どは「全面中止」という判断をしている。
②対入居者
「外出レクリエーション」については「全面禁止」が回答の多くを占めた。一方で「散歩など私的な外出」については「行先によっては禁止」が「全面禁止」を上回った。私的な外出は入居者個々の事情があるため、事業者側で一律禁止を打ち出すのは難しい面もあるようだ。
スタッフ研修も中止・縮小
外部イベントの職員出席は禁止
③対スタッフ
政府の「イベント自粛の呼びかけ」を受けて、介護関連の会合やセミナーも多くが中止されているが、仮にそれらが実施されていても「スタッフの参加は全面禁止」とする回答が多くを占めた。
しかし、こうした会合やセミナーについては公私の区別がつきにくい面もある。業界従事者数名が集まる飲み会まで制限すべきか、事業者としては頭を悩ますところだろう。
また「集団形式の社内研修・イベント等」についてはケア品質の維持・向上には不可欠という考えからか「規模・時間を見直し」「WEB会議などの実施」など、従来とは違う形で実施している事業者が多数を占めた。
また、表にはないが、他業界で導入している「テレワーク」など働き方を変えることでの対応策については、「時差通勤の実施」は3事業者が、「電車やバス以外での通勤推奨」は4事業者が取組んでいた。しかし、人が人に対してサービスを提供する、という業務特性上、テレワークを導入している事業者はいなかった。
長期戦に備えた対応策も必要に
この結果からもわかるように、14事業者すべてがコロナに対して、通常の感染症対策以上の対策をとっている。
しかし、入居検討者の見学の禁止や制限は入居率の低下につながる。外部レク講師の出入り禁止や制限は、レクの単調化を招くだけでなく、その分のレクをスタッフが考え、実施しなくてはならなくなり、結果的にスタッフの負担が増す。
そして、面会や外出レク、私的な外出の禁止や制限は入居者のQOLやADLの低下が懸念される。スタッフにセミナーや会合の参加を禁止したり、社内研修を中止したりすることは、知識や技能の向上をストップさせてしまう。
つまり、これらの対応策はコロナ感染や拡大防止に効果は発揮しても、長期的にはマイナスの影響も少なくない。コロナ流行の終息が現時点では見えない中、これらの対応策をいつまで続けるべきかという判断も難しい。長期戦になることも想定し、経営に与える影響を少なくさせるような対応策の導入も考える必要があるだろう。
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例えば、外部講師によるレクや社内研修・会議などはオンラインで実施するなどの取組みは検討できないだろうか。入居検討者に向けて「バーチャル見学」などの動画を作成しホームページやSNSなどにアップすることも考えられる。様々なアイデアを駆使して難局を乗り切ることが求められる。
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