【〈連載〉在宅医からみた地域社会 ~10年後、20年後のニッポン~】
連載第7回 適切な感染防御とは何か?
4月7日、7都道府県で非常事態宣言が出された。
新型コロナウイルスの感染拡大により、感染病床の稼働率が100%を超えた地域もあり、厚生労働省は軽症者の宿泊療養・自宅療養の方向性を打ち出している。今後、軽症者は病院に入院できない、あるいはPCRの陰転化を待たずに早期退院が進められることになる。
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一方、要介護高齢者は加齢に伴う脆弱性と複数の基礎疾患を有しており、重症化すれば予後の見通しは非常に厳しい。病院で人工呼吸器をつけても離脱することは難しい。入院後は家族との面談も許されないまま、多くは、ビニール袋で密閉された遺体となって初めて家族と再会することになると思われる。
従って、病院での積極的治療を望まず、在宅での緩和ケアを選択する要介護高齢者も今後増えていくと予想される。また、集中治療室のキャパシティを超えるようなことがあれば、積極的治療を希望しても受け入れてもらえないという状況も当然生じうる。
このような状況から、今後、在宅ケアに関わる医療介護専門職には、新型コロナ感染者の療養支援、つまり軽症者に対する隔離ケア、および重症者に対する緩和ケア・看取り・死後処理などが求められることになる。病院機能を守るためにも、このような地域での役割分担は非常に重要と考える。
一方、在宅ケアは平時より慢性的な人手不足で、専門職の感染による勤務停止は地域のケア提供体制を崩壊させる。また専門職の感染は、地域や施設に感染拡大を起こす危険もある。よって適切な感染防御を行ないながら地域の在宅ケアニーズに応えていく必要がある。
適切な感染防御とは何か?
新型コロナの難しいところは、潜伏期間が長いこと、そして無症状の潜伏期間中にも感染のリスクがあるとされていることだ。発熱や咳をしていれば、こちらも事前に準備ができるが、そうでない高齢者が後から新型コロナ感染症であったとわかることもある。
濃厚接触してしまうと自身に感染のリスクが生じる。また、感染していなくても14日間の出勤停止となる。現場にとっては非常に大きなダメージだ。すでに感染拡大期に入っている。
「目の前の患者・利用者が新型コロナに感染していたとしても、濃厚接触にはならない」ということを常に意識しながら日々のケアを提供していくことが非常に重要になる。
このように書くと、N95やフェイスガードが絶対に必要だ、と思う方もいるかもしれない。しかし、手洗い、サージカルマスク、グローブ、換気、この4つだけで、ほとんどのシチューエーションにおいて濃厚接触を避けることができる。
つまり、ユニバーサルプリコーションを徹底する、ということだ。
濃厚接触となるのは、次の5つの場合だ。
①患者と同居している。
②患者と手の届く距離で数分間会話したが、お互いにマスクを装着していなかった。
③患者の身体、体液に直接接触し、直後に手指衛生を行わなかった。
④換気の悪い閉鎖された空間に、患者と1時間以上一緒にいた。
⑤集団感染の発生が報告されている同じ場所に、1時間以上いた。
つまり、お互いにマスクをしていれば、ケアの直後にきちんと手洗いをしていれば、こまめな換気を行っていれば、相手が新型コロナであっても濃厚接触とはならないということになる。念のために、その後14日間は自己モニタリング(健康状態のチェック)が必要になるが、勤務は継続してもよい。
(次号へ続く)
佐々木淳 氏
医療法人社団悠翔会(東京都港区) 理事長、診療部長
1998年、筑波大学医学専門学群卒業。
三井記念病院に内科医として勤務。退職後の2006年8月、MRCビルクリニックを開設した。2008年に「悠翔会」に名称を変更し、現在に至る。
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