---連載第16回 日本は「ニューノーマル」をどう描くのか---
医療システムの変革
世界は、Covid-19の出現によって、文明の転換期を迎える。日本は非接触な〝ニューノーマル〞時代をどのように描くのか。
日本政府では「はんこ」業務がテレワークの障害になっているのでは、との記者の質問に対する、IT政策担当大臣の竹本氏の発言が物議を醸す。「はんこ」すら、この事態に及ばないと変えられない我が国に比べ、韓国政府では、中央防疫対策本部のチョン・ウンギョン本部長のリーダーシップで、監視の効率化にスピード感を持って取り組んだ。スマホアプリの活用で、5万人に及ぶ自宅隔離させた市民の監視、スーパースプレッダーによる感染拡大防止など、米国のウォール・ストリート・ジャーナルも彼女を、「真実なる英雄」として評価している。
また台湾では、「マスク配布システム」で脚光を浴びたオードリー・タン大臣が担う先進的な行政に注目が集まる。マスク配布システムには、「シビックテック」(ITで市民の課題の解決を目指す)と呼ばれるアクションに取り組む「g0v(ガブゼロ)」というコミュニティ組織が活躍していたという。
世界中の多くの都市で、スマートシティを実現させようという潮流のなか、地球はCovid-19に先回りされた。この社会的必然のなかで、未来社会のコンセプトである「Society5・0 for SDGs」実現への社会実装が、あまりにも早く訪れてしまったといえる。
2月初旬の連載には、東京2020イヤーの医療・介護のイン・アウトバウンドについて、市場規模が約5500億円の推算だとお伝えしたばかりだったが、その直後に世界が一変した。未来予測は覆され、社会システムの再構築を余儀無くされるなか、医療・介護業界はどのような変革を遂げるのだろうか。
収束後もCovid-19と共存するなかで、遠隔医療は重要だ。アフリカのルワンダでは、イギリスの「Babylon Health」の遠隔医療を制度に導入した。登録情報は、国民ID・国民保険制度にひもづいており、本人確認の後、システムによるトリアージを行い、重症の場合は近隣の医療施設まで紹介・搬送はするが、医療行為は行わない。8割のケースは遠隔で対応可能な症状であるというが、以前取材した、オランダのホームドクターも同様のことを言っていた。
ルワンダの農村部は医師不足のため、以前は簡単なトレーニングを受けた非医療従事者がアドバイスをしていたという。現在は、わずか16人の医師・看護師が毎日2000件をこなし、2018年3月時点でユーザーが85万人を超え、地域の命を守っている。
また、ヘルステック(ヘルスケア×IT)「Babylon」は、財政を圧迫するイギリスの都市ヴァーハンプトンの市民30万人に対し、今年1月、「デジタルファーストな統合ケア」の提供を発表した。アプリとAIプラットホームを介して、リアルタイムモニタリング。イレギュラーを検知した際には迅速対応が可能。同社はNHS(国民保健サービス)とも包括的に取り組む。
日本では、課題の一つに医師の偏在がある。社会構造が変わり、遠隔のシステムが定着すれば、地方における医療システムのあり方も変わる。課題解決には、ITの浸透は不可欠だ。今こそ、未来を考える絶好の機会である。
小川陽子氏
日本医学ジャーナリスト協会理事・広報委員。国際医療福祉大学大学院医療福祉経営専攻医療福祉ジャーナリズム修士課程修了。同大学院水巻研究室にて医療ツーリズムの国内・外の動向を調査・取材にあたる。2002年、東京から熱海市へ移住。FM熱海湯河原「熱海市長本音トーク」番組などのパーソナリティ、番組審議員、熱海市長直轄観光戦略室委員、熱海市総合政策推進室アドバイザーを務め、熱海メディカルリゾート構想の提案。その後、湖山医療福祉グループ企画広報顧問、医療ジャーナリスト、医療映画エセイストとして活動。2019年より読売新聞の医療・介護・健康情報サイト「yomiDr.」で映画コラムの連載がスタート。主な著書・編著:『病院のブランド力』「医療新生」など。
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