≪連載第128回 課題解決!介護事業相談室≫
今回は新型コロナウイルス禍での経営について取り上げます。
正確な財務状態の把握を
Q.住宅型有老を経営しています。コロナで新規入居が思うように進みません。財務改善のポイントを教えて下さい。
A.経営者が行うべき財務上の役割は次の3つです。
(1)利益‥売上を拡大し、支出を抑制することで、利益の最大化を図る。
(2)キャッシュフロー‥利益を源泉にキャッシュフローを生み出し、適切な配分を行う。
(3)健全な財務状態‥財務構造を把握し、財務能力と決済能力を管理する。
財務改善とは「現在の財務状態」を「健全な財務状態」に近づけていくことを意味します。財務改善を行うために前提条件として行うべき点が3点あります。
(1)現在の財務状態を正確に把握すること。
(2)健全な財務状態について関係者の認識を一致させること。
(3)健全な財務状態に近づけるための施策を実行すること。
財務状態の正確な把握が不可欠
チェックポイントは「財務諸表は法人の現在の状態を正確に反映しているか」「月次で財務状態を把握できるシステムは整備されているか(売上は日次)」「客単価・顧客数など補足すべき経営データとリンクできるか」です。
財務諸表が法人の財務状態を正確に反映していることが、正確な経営判断を行う上での大前提です。各種経営指標とリンクさせることで、法人の現状や、異常値を速やかに把握できます。
現状とあるべき姿の把握
現在の状態とあるべき姿が定まれば、あとは実行のみです。ここで重要となるのが、「進捗管理」「PDCA」「KPIの管理」です。
現状を正確に把握し、あるべき姿を定めたら、あとは実現に向かって、計画を策定し具体的な施策をひとつひとつ実行していくのみです。
KPIは「新規顧客獲得数」などマーケティングや営業の現場でよく使われますが、サポートや管理部門でも「顧客満足度」や「従業員満足度」などのKPIを導入している法人があります。完璧な計画はないと考え、ゴールに向かって走りながら修正していきます。
財務体質の悪化原因
財務体質の悪化原因は様々です。バランスシートは法人のこれまでの企業活動の蓄積です。おそらく気になっていた点はあるにしても具体的な対策が打てていなかった、または現場任せになっていたということもあるでしょう。具体的な悪化の状態や原因をいくつか挙げてみます。
(1) 利益が減少した
a.売上が減少した
b.固定費が増加した
c.変動費が増加した
(2) キャッシュフローが減少した
a.売上が減少した
b.回収が遅延した
c.支払が増加した
d.借入返済が増加した
(3) 資産効率が悪化した
a.売掛金が増加した
b.空室が増加した
c.利益に貢献しない資産が増加した
財務体質改善に取り組まなかったらどうなるか
お客様のケアを思い浮かべてください。「血圧が高めですね」とお客様の受診の際に言われたら介護のプロとしてどうするでしょうか?医師の指示に従い、お客様のご家族、ケアマネジャーと連携し、施設側は食事に配慮をする、運動して頂くなどの対策を打ちます。もしそれをしなかったらどうなるでしょうか?お客様の高血圧はさらにひどくなり他の病気を引き起こすことになります。
ではもし財務改善に取り組まなかったらどうなるでしょうか。
利益が減少している状態で何も手を打たなければ、その状態は変わりません。売上が拡大しても、回収状況が悪ければ、例えば入居者の家賃等の支払が遅れてしまえば、キャッシュフローは不足するでしょう。そして財務状態の悪化が積み重なると金融機関からの資金調達に支障がでてきます。
財務状態が悪化しいるにもかかわらず、何もしなければその状態が顕著になってしまいます。体調管理と同様で、しっかり対策をとることが重要です。「うちは大丈夫」ではなく、「うちも大丈夫ではないかもしれない」と考えるのもリスクヘッジとなります。
伊藤亜記氏
㈱ねこの手 代表
介護コンサルタント。短大卒業後、出版会社へ入社。祖父母の介護と看取りの経験を機に98年、介護福祉士を取得。以後、老人保健施設で介護職を経験し、ケアハウスで介護相談員兼施設長代行、大手介護関連会社の支店長を経て、「ねこの手」を設立。
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