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 東京消防庁は16日午前9時から、心肺蘇生を望まない終末期の人などを対象に、救急搬送時、ACP(アドバンス・ケア・プランニング)を通じて本人意思が確認できているなどの一定の条件下で、蘇生や病院搬送を中止できる新ルールの運用を開始する。「現場」となる介護事業者の中には16日のスタートを知らないケースもあり、困惑の声も。こうした仕組みが一般的になるなか、ACPへの取り組みはさらに重要度を増している。

2019年12月11日号7面に関連記事掲載

「かかりつけ医」を積極的に推進している東京都医師会では、11月上旬に東京消防庁からの通達があり、それを各地区医師会に対して周知している。

 

 

訪問看護を行っている東久留米市白十字訪問看護ステーションの中島朋子所長は「11月に消防庁の通達を受けて地域や多職種で検討している」と説明。従来から意思確認はしてきているが、新ルール導入で改めてACPが注目されるなかで「本人を軸に家族の要望なども踏まえ、新たにどんな取り組みが必要かを多職種連携で考えていかなくてはいけない」と話す。
他方、介護事業所に対しては、これまでのところ、事前の通知などはほとんど行われておらず、情報収集は各事業者任せの様相だ。

 

 

介護現場に戸惑い、意思確認見直しも
新ルール開始を認識していた在宅介護事業のアースサポート(東京都渋谷区)の森山典明社長は、「新制度を契機に、介護事業者もACPの重要性を再認識すべきだ」と指摘。「介護職員一人ひとりがICTツールなども活用して個々の事例にきめ細やかな対応が行えるよう資質向上に努める必要がある」と話した。

23区部の特別養護老人ホームの担当者は「16日から始まるということは知らなかった」と少し驚いた様子。心肺蘇生や救急搬送に関しては「入所の際の説明時に契約者である家族に確認している」とのことだが、「ほとんどの入居者が『心肺蘇生を望む』と希望している」。ルール変更を受けて意思確認をする予定はない。

別の都内特養の施設長も「運用変更は知っていたが、16日開始は知らなかった」と話す。この施設では本人の意思と家族の希望を入所時の説明時に聞き取りしており、万一の場合に夜勤担当の職員が慌てないよう、管理用のパソコンにそれぞれの入所者がどのような看取りを希望しているかを記録している。さらに意思確認は入院や体力低下などの変化が起きた時に折に触れて実施し、「職員を含めて普段から介護のキーパーソンと家族での話し合いを求めている」(同施設長)とのことで、新制度を冷静に受け止めている。

 

意思決定支援がカギ(医療法人社団つくし会 新田國夫理事長)

 東京消防庁の新たな運用について、高齢者在宅医療に長年携わる、日本在宅ケアアライアンス議長、日本臨床倫理学会理事長などを兼任する医療法人社団つくし会(東京都国立市)の新田國夫理事長に話を聞いた。

――今回の運用ルールについてどう思うか。
新田
 以前、横浜市の救急業務検討委員会で委員として、これと同様の運用策定にかかわったことがあります。今年3月にとりまとめたもので、こちらではかかりつけ医と患者が「心肺停止時に蘇生を望まない」旨の指示書を事前に作成し、それをかかりつけ医が救急隊員に提示することで、心肺蘇生の中止が決定されます。これに対し今回の運用では、書面を用意しなくとも、心肺蘇生の中止が可能になります。かかりつけ医がどれだけ患者の意思を把握できているか、それができるかかりつけ医がどのくらいいるのかはわかりませんが、今在宅で医療を受けている高齢者の方は嬉しいだろうと思います。

――課題は。
新田
 かかりつけ医がいつでも電話を取れるのかどうか、意思決定支援がまだまだ十分ではないこと、この2点です。重要なのは本人の意思をわかってあげること。これを支援できる体制づくりが必須です。

――今後について。
新田 
どこの自治体でも救急隊員は頭を悩ませていると思います。まずはACPが普及しないと、患者の意思を尊重することもできません。他の自治体でも、このような取り決めは今後増えていくでしょう。

(医療法人社団つくし会 新田國夫理事長)

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