---第81回 後期高齢者の医療費負担2割アップ---
75歳以上の後期高齢者が医療機関で支払う窓口負担がこれまでの1割から2割に倍増する案が浮上している。理由は団塊の世代が後期高齢者となる「2022年問題」を間近に控えているからだ。2022年問題とは1947年から49年に生まれた団塊の世代700万人の先頭集団が、いよいよ2022年に後期高齢者の仲間入りする年だ。
22年後期高齢者は1957万人となり、25年2180万人に膨れ上がる。後期高齢者の医療にかかる費用は自己負担分1割負担を除くと、高齢者の加入者本来の保険料1割、若年者の保険料からの後期高齢者支援金4割に加えて公費5割によって支えられてきた。このうち後期高齢者支援金はいわゆる若者から高齢者への「仕送り」と呼ばれている。
しかしその支援金額が大企業などの健康保険組合などでは組合支出の約6割にも達し、健康保険組合は赤字に追い込まれ、解散する組合も後を絶たない。このような世代間の負担の不公正を放置すれば制度そのものが成り立たない。
では改めて後期高齢者医療制度を今一度振り返ってみよう。後期高齢者医療制度は小泉純一郎内閣の医療制度改革で8年に生まれた。8年の時点で後期高齢者は1300万人だった。この1300万人が75歳の誕生日を迎えた時、子供の扶養家族の高齢者も健保組合や国民健康保険から切り離され一人一人が後期高齢者医療制度の加入者となった。そして導入された1割自己負担は保険料を75歳以上の高齢者も各自支払うことで医療へのコスト意識を高めることが狙いだった。
さて高齢者の医療費自己負担率の歴史をさらに過去にさかのぼってみてみよう。今では想像もできないが、1973年以前はなんと高齢者の自己負担率は5割だったのだ。それを高度成長期真っ只中の田中角栄内閣の時の73年に老人医療費無料化が行われ、自己負担率がゼロになる。73年時には後期高齢者の人口は280万人である。自己負担分ゼロでもそれほどの財政インパクトはなかったのだろう。さすがにこの老人医療費無料化制度は82年に廃止され、それ以降、じわじわと高齢者の自己負担分比率が上がっている。
さて今回の75歳以上2割負担はどのように導入されるのだろう?まず考えられるのは導入後に75歳に達した人から順次2割負担にする案だ。すでに現在でも70歳から74歳の人は2割負担であることから、誕生日を迎えたあとも2割負担なので抵抗感は少ないだろう。
このように知らず知らずのうちに高齢者自己負担分が値上がり、気が付いたときには73年以前の5割負担に逆戻りという事態にならないことを祈るばかりだ。
国際医療福祉大学大学院教授
武藤正樹氏
1974年新潟大学医学部卒業、国立横浜病院にて外科医師として勤務。同病院在籍中86~88年までニューヨーク州立大学家庭医療学科に留学。94年国立医療・病院管理研究所医療政策部長。95年国立長野病院副院長。2006年より国際医療福祉大学三田病院副院長・国際医療福祉大学大学院教授、国際医療福祉総合研究所長。政府委員等 医療計画見直し等検討会座長(厚労省)、介護サービス質の評価のあり方に係わる検討委員会委員長(厚労省)、「どこでもMY病院」レセプト活用分科会座長(内閣府)、中医協調査専門組織・入院医療等の調査・評価分科会座長
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