バリアフリーを考える
「介護タクシー」「福祉タクシー」と言えば、従来は通院や通所の移動手段やリフト付の福祉車両、NPOなどによる福祉有償運送の印象が強かったが、最近は国土交通省が推進しているユニバーサルデザインタクシー(UDタクシー)なども「福祉タクシー」と呼ばれ、身近な存在になってきている。しかし、UDタクシーによる車椅子乗車拒否といった新たな問題も浮上。ハード(車両)だけでなくタクシー会社の理念や乗務員一人ひとりの「質」、ソフトが改めて問われている。
国土交通省は2018年制定のバリアフリー新法などを背景に、「福祉タクシー」の普及を進めている。認可形態や運転手の介護資格の有無は問わず、車椅子でも乗れるUDタクシーの普及が中心だ。同省の調査によると、18年度末時点の「福祉タクシー」は2万8602台、そのうち1万2533台がUDタクシーだった。
国交省の担当者は「UDタクシーならば、障害のある人や高齢者など移動の制約のある方も使い勝手がよく、従来どおりの一般の乗客輸送もできる」とメリットを説明。20年度末までに約4万4000台の導入を目標に掲げる。
UDタクシーの普及が進む一方、新たな課題として車椅子の人の乗車拒否などが急増。UDタクシーは一般のタクシー会社も多数導入しており、ハード(車両)的には充実してきたが、乗務員の意識は旧態依然としていることが多い。国交省も事態を深刻に受け止め、昨年11月8日には、正当な理由がなく乗車拒否した場合、道路運送法に基づく処分を含めて厳正に対処するとした通達を業界団体に出している。
従来の定義での「介護タクシー」「福祉タクシー」は、介護事業の認可を得た運行会社や福祉有償運送に基づく事業者が運営しており、乗務員のホスピタリティーなども充実したものが主だった。それだけに、介助などの経験がない乗務員とUDタクシーという組み合わせはソフトとハードがちぐはぐの状態で、困惑する利用者も少なくない。
介護事業所認可 乗客の厚い信頼
大和自動車交通
業界大手で、介護タクシーや福祉タクシーの運行で定評がある大和自動車交通(東京都江東区)。同社はグループ会社の大和自動車交通ハイヤー(同中央区)と、立川事業所(同立川市)で福祉輸送サービスを展開している。
大和自動車交通ハイヤーは、02年10月に東京都から介護指定事業所の認定を受けて福祉業務を開始。中央区銀座1丁目に中央福祉営業所を開設した。応対する乗務員は全員がホームヘルパーの資格を所持。リフト付で車椅子やストレッチャーのまま乗車できる車両を配備し、介護保険サービスの通院等乗降介助による病院や施設への送迎のほか、保険外サービスでの通常の乗車も可能だ。いずれもハイヤー運行での利用となる。
立川事業所も介護指定事業所の認可を受けており、専門の乗務員を配置。中央福祉営業所とは配備車種が異なり、福祉タクシーとして運用している。介護保険を使いタクシーを利用する場合、通常の乗車料金に介助料(1060円)が加わるが、この介助料部分は介護保険の適用対象となり、保険負担割合によって本人負担は1〜3割にとどまる。
「多摩地域は都心に比べると交通機関も限られます。特に介護の必要な人にとってタクシーは大切な移動手段。保険利用以外でも『大和さんなら安心』と言ってもらえるとうれしいですね」(立川営業部吉村真吾主任)
精鋭乗務員で人気サポートタクシー
日本交通
タクシー業界最大手の日本交通(東京都千代田区)は、全車両をUDタクシーに転換していく一方、乗務員のサービス向上やホスピタリティーに注力し、高い評価を得ている。特にEDS(エキスパート・ドライバー・サービス)は、「全ドライバー約1万人のうち290人」の精鋭乗務員が担当していることで人気が高い。
このうち70人ほどが、高齢者や障害のある人の利用が多い「サポートタクシー」の乗務員。11年8月にスタートした介護保険適用外のサービスだが、乗務員は介護職員初任者研修、普通救命技能認定(AED)などを修得。通院や通所、レクリエーションなどでの利用も多い。
同社管理部秘書・広報担当の野村貴史副部長は「月に200件前後の依頼が来ますが、資格保持者以外は担当させませんから、すべての依頼をカバーできているとは言い難いです」と需要の高さを説明する。
国土交通省は4日、「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律の一部を改正する法律案」を閣議決定した。第一に挙げた課題が「ハード面のバリアフリー化を進める一方、使用方法等ソフト面の対応が十分ではなく、高齢者・障害者等の移動等が円滑になされない事例が顕在化」している状況だ。
大和自動車交通と日本交通に共通するのは、「ハードとソフト両面でのバリアフリー」をサービスの基本に据え、実現している点だ。タクシー会社のブランドに加え、こうした姿勢が利用者の信頼につながっている。
ハードとソフトの両立---これは20年からの新たなバリアフリー施策における重要な要素だ。
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