---連載 点検介護保険---
昨年の3月、未来投資会議で安倍総理は「介護予防については、高齢者の集いの場の整備を図ります」と、「集いの場」を強調した。「集いの場」とは「通いの場」のことである。その後、5月に厚労省が公表した「健康寿命延伸プラン」の中に、通いの場の高齢者比参加率を20年度末までに6%とし、認知症大綱でも25年度に8%とする目標を掲げた。
医療や介護の利用者をできるだけ減らそうと健康寿命延伸論を掲げ、「予防」の必要性を説き、その具体策として突然浮上したのが「通いの場である。運動や会食、趣味活動などに高齢者を参加させる作戦だ。
最新の18年度は全国で10万6766ヵ所、参加者は202万1747人。6年間でそれぞれ、2.5倍、2.4倍に増えているという。だが、実は調査がかなり杜撰で数値の根拠が怪しい。
18年度で最も多いのは大阪市だが、第2位は北九州市の2280ヵ所、6万3177人とある。高齢者数がはるかに多い横浜市や名古屋市、神戸市を大きく引き離した。前年の17年度はわずか400ヵ所、7744人だから急増だ。なぜか。同市では「ふれあい昼食交流会の活動が大半」と説明する。同交流会は、市内110の北九州市食生活改善推進員協議会の呼びかけで、地域ごとに高齢者が月1回各市民センターに集まる。
実は20年前から同規模で続けている。18年度に「初めて認定した」からビックリだ。それも本来の実人数でなく、「延べ箇所数と延べ人数を算定した」。あきれてしまう。
東京都23区でみると、箇所数で最も多いのは杉並区で984ヵ所、参加者で最多は1万6662人の葛飾区である。高齢者数は杉並区が7番、葛飾区は8番目である。
都内で高齢者が最も多い世田谷区は218ヵ所で参加者は3390人にとどまる。世田谷区は、介護保険の総合事業で「住民主体の通所サービスB」を「地域デイサービス」として15ヵ所も展開するなど、地域住民の助け合い活動が盛んなところだ。それなのに杉並、葛飾両区よりはるかに少ない。疑問が湧く。
杉並区は「全体の9割近くを『いきいき活動』が占めている」と話す。67の老人クラブ(いきいきクラブ)がそれぞれにスポーツや音楽、手工芸など多数の趣味サークルを持ち、住民の自主グループと合わせて「いきいき活動」と総称、そのすべてを「通いの場」と算定した。老人クラブは名称こそ異なるが、昔ながらの全国団体である。
ところが、世田谷区では93の老人クラブ(高齢者クラブ)を「通いの場とは考えなかった」と打ち明ける。杉並区とほぼ同じ高齢者数の板橋区でも、老人クラブは「担当する係りが違い、念頭になかった」と話す。同区の老人クラブは12支部に133あり、会員は1万2000人に達する。
また、葛飾区は、「社会福祉協議会(社協)が通いの場に該当する『小地域福祉活動』を行っているので、社協の全会員8000人をすべてカウントしたので参加者が増えた」と話す。19の地区自治町会連合会ごとに歌声喫茶やお茶飲み会などを開くのが小地域活動だ。だが、同区社協では「必ずしも社協の会員が皆参加しているわけではない」と首をかしげる。
老人クラブ、町内会、自治会、社協、NPOの自主事業、コミュニティカフェ――――。さまざまな地域活動のどれを「通いの場」とするか。自治体の担当部局、あるいは担当者により判断が異なる。
厚労省が示した「通いの場」の4条件は、(1)体操や趣味活動等で介護予防に資すると自治体が判断(2)運営主体が住民(3)自治体の助成がなくてもいい(4)月1回以上の活動。多くの自治体から「介護予防に役立つかの判断は難しい」「もっと具体的に示して」と訴える声が聞かれる。定義が不明確なまま、目標参加率を達成させることに意味があるのだろうか。
浅川 澄一 氏
ジャーナリスト 元日本経済新聞編集委員
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