コロナ禍における福祉施設の退職事情
福祉業界は不況時には人材が集まるといいます。コロナ禍において、飲食、観光業などでは経営面で甚大な影響を受け、廃業する企業も増えています。それに伴い失業者も増加し、ある報道では2020年末にかけて100万人が失業するというショッキングなニュースもありました。
先日訪問した某社会福祉法人の施設長も、ここ最近は週に5名ほどの面接希望者がいるという話でした。ある希望者は一部上場企業の旅行代理業の元ツアーコンダクターで、コロナ禍で全く仕事がなくなり、以前から関心のあった介護施設への転職を決意したとのことでした。第一印象からあいさつ、マナーも良く、今後は介護福祉士の資格取得など目標の設定も明確で、自己研鑽力も高いという好印象だったそうです。
このような人材が介護の職場に転職してくることで介護業界のイメージが変わるかもしれないと期待をしている様子でした。同時にこうした人材が介護業界にがっかりし、失望したということがないように、しっかりと組織づくりをしなければならないと気を引き締めていました。
しかし、現実は残念ながら福祉業界を去っていく方が依然として多くいます。先日、某県社会福祉協議会の方から福祉介護業で勤務していた元職員に対して行ったアンケート結果報告を頂きました。その報告では「退職者がどのような理由で退職しているか」を詳細に分析していましたので、その一部を紹介します。
このような分析結果を自社と照合し、人材の定着率アップにむけた資料として活用してみることも重要なことです。
施設の種類によって多少の違いがみられますが、福祉職員の退職理由には大きな傾向があります。退職理由の1位は「職場メンバーとの人間関係」、2位は「上司の部下への関わり方」、3位は「仕事に見合った賃金ではない」、4位が「仕事の負荷(多過ぎ、難し過ぎ)」、5位が「結婚」という順位です。5位の結婚退職を除くと、いずれも職場の問題が上位を占めています。私も介護現場で多くの相談を受けますが、同じ相談内容ばかりです。特に1位と2位は「コミュニケーション力」の問題です。4位の「仕事の負荷」に関しても、しっかりと上司と部下のコミュニケーションが取れている施設は、仕事の偏りなどをいつも上司が気にしていて頻繁に声をかけていることからコミュニケーションも良好です。
介護は「ひと対ひと」がベースであり、コミュニケーション力を磨く努力が何よりも重要だと思います。人材育成の第一歩はコミュニケーションです。皆さんの職場の状況を客観的に一度振り返ってみることも必要ではないでしょうか。
志賀弘幸氏
社会保険労務士法人THINK ACT代表 一般社団法人福祉経営綜合研究所理事
関西大学卒業後、メーカー、大学、コンサルティング会社勤務を経て2010年にシンクアクトを設立。社会保険労務士、社会福祉士の資格を活かし、福祉介護業界に特化した人材育成・キャリアパス制度、労務管理アドバイスなどを全国の顧問先で実践。著書に『ビジネスとしての介護施設――こうすれば職員が定着する』(時事通信社)。
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