経営難介護事業所の「閉鎖前」に行政が地域で調整を
「ウィズコロナ」で介護事業運営はどのように変化していくのか。事業者トップにコロナの影響と今後を聞いていく第2回目は、兵庫県で入居系から在宅まで幅広いサービスを展開する社会福祉法人あかね(兵庫県尼崎市)の松本真希子理事長。
──感染の状況は
松本 (7月14日現在、スタッフ約900名、利用者約4000名の)感染者は出ていない。施設内はもちろん、スタッフ一人ひとりが最大限の注意を払っているが、特に在宅サービス利用の高齢者は外での感染リスクもあり完全に防ぐのは自社の努力だけでは難しい。
──コロナの緊張は続くがこれまでの率直な感想を
松本 行政も介護事業者に対して加算などの救済策を打ち出してはいたが、要支援者を対象としたデイなどは打つ手がなかった。また、いつものように申請方法がわかりにくく情報も行き届いていない。周辺事業者から聞こえてくる声は「知らなかった」「内容がよくわからない」「利用者のためにならないから加算は取らない」といったようなものばかり。利用者の同意書が必要など、コロナ禍の混乱した現場でさらに余計な仕事が発生してしまっていた。
──コロナ禍で意識したことは
松本 スタッフにはこういう時だからこそ利用者や家族、周辺事業者とも連絡を密にして関係性を強化するよう指示していた。特に在宅サービスは複数の法人をまたいで利用する高齢者が少なくないため、法人の枠を越えた情報共有が必要だと強く感じている。
──法人を越えた連携は簡単ではない
松本 介護サービスに従事する我々が、誰のためのサービスかという理解がまずは重要だ。自分の法人のためだけではなく、例えばコロナ感染でスタッフが足りない施設に別の法人のスタッフがヘルプに入るなども考えるべきかもしれない。高齢者には慣れ親しんだ介護施設を継続利用できるようにしてあげたい。ただ、制度が整っておらず結局は善意のボランティアとなってしまう。こうした活動には報奨金などで報いるなど検討すべきではないか。
──コロナで起きた変化は
松本 やはりオンライン会議などが進展したこと。コロナ禍でサービス担当者会議の延期・中止も可との通達があったが、実際そういうわけにはいかない。そこでzoomで実施したところ特に支障はなく時間調整も容易で不満は出なかった。オンライン会議であれば移動なしに情報交換の場を持つことができる。より他事業所との連携が取りやすくなった。
これは家族の面会でも同じことが言える。家族が遠方だったり海外だったりでなかなか面会できないケースがあるが、コロナがオンライン面会を一気に進めた。
オンライン化、今なお抵抗も
──このままオンライン化は進むか
松本 残念ながら介護事業者ではまだまだ抵抗が少なくないのが実態だ。周辺事業者に「紙でのやり取りは辞めないか」と声掛けをしたことがあるが、「個人のメールアドレスがない」といったことから、「メルアドは個人情報だ」「誤送信したらどうするのか」など時代錯誤のような反対意見にあう。
──経営的な影響は
松本 特養など入居系に大きな影響はないが、軽度者が多いデイは利用率が大きく下がりなかなか戻らなかった。重度者も一時は利用控えがあったが戻りは早い。介護業界はコロナだけではなく3年に一度の改定によりサービスごとの報酬変動が小さくない。単一サービスに偏ることのない展開をより重視すべきだと再認識した。
──コロナによる経営不振で事業承継も増えることが予想される
松本 今のところそういった話が当法人には寄せられていない。ある程度の売上があり金融機関、M&A仲介会社が介在するような規模であれば承継先が見つかるのだろうが、一番の問題は「静かに事業を閉じてしまう」場合だ。こうした情報が入ってくることはほとんどない。
もし「近隣で経営に行き詰ったデイがある」といった情報があれば支援も検討したい。そうすることで利用者も継続して慣れた施設を使えるし、介護スタッフが転職で他業界に流れることも防げる。行政や地域包括などが、事業停止する前の一時窓口となって支援先探しをしてもいいのではないか。
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