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「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)2020」が7月15日に閣議決定された。この中で新型コロナ後の「医療・介護におけるデジタル化の加速」が大きく取り上げられた。今後、わが国でもさまざまなデジタル・トランスフォーメーション(DX:Digital Transformation)がもたらされるだろう。

 

 

具体的には
▽オンライン診療
▽電子処方箋
▽PHR(パーソナルヘルスレコード)
▽ 介護におけるICT・ロボット化・AI化
▽ 介護アウトカムデータベースの導入
---などが想定される。

これら「医療介護DX」に関する検討の現状とその課題を見ていこう。

 

 

□オンライン診療

 

新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、初診時からのオンライン診療が、時限的・特例的ではあるが導入された。実際に20年5月時点で、東京都内の医療機関数1860ヵ所、それらのほぼ半数に当たる897ヵ所で初診から実施されたという。

 

ただし、オンライン診療で新型コロナの診断を行うには患者の動画像と音声だけでは限界がある。このため、体温、血圧、脈拍、呼吸数や血中酸素飽和度などの患者モニターや、在宅におけるPCR検査とオンライン診療の組み合わせが今後必要だろう。

 

すでに診療報酬制度でも、心臓ペースメーカーや睡眠時無呼吸に関してはオンライン・モニタリングが報酬化されている。早急に患者モニタリングを実装したオンライン診療機器の開発と普及が必要だ。

 

 

 

□電子処方箋

 

オンライン診療や在宅医療の普及により、電子処方箋のニーズも高まっている。実は電子処方箋の議論は、わが国でもかれこれ10年以上前から始まっている。

 

しかし、これまでは全く具体化してこなかった。この電子処方箋の実現には、PHRの実現を待たねばならない。PHRとは「個人の健康診断結果や服薬履歴等の健康等情報を、電子記録として、本人や家族が正確に把握するための仕組みで、それを医療機関に提供するなどして活用する仕組み」のことだ。

 

PHRは「オンライン資格確認等システム」に連動した「マイナポータル(情報提供等記録開示システム)」により実施される。

 

 

これにより、個人が国や市区町村が保有する特定健診情報や医薬品や手術情報などの個人情報を確認できるようになり、また医療機関もこの情報を活用できるようになる。そして、電子処方箋もこの仕組みを活用する。医療機関がオンライン資格確認等システムを通じて薬剤情報と連携して処方箋を電子登録する。

 

調剤薬局はオンライン資格確認等システムにアクセスし、登録された処方箋情報に沿って調剤を行う。これによって異なる医療機関の薬剤情報が一元化され、重複投与や薬剤相互作用などの検出も可能となる。電子処方箋もこのオンライン資格確認等システムと抱き合わせて22年夏までに実現しようとしている。

 

 

ケアプランのウェブ入力モデル

 

 

 

ICTやロボット導入誘導を

 

介護分野におけるDX、「介護DX」には、取り組みを急ぐべきテーマが多数ある。とりわけ、介護人材が不足する中、人手に頼っていた業務を補完するためのICT、ロボット、AIなどの導入や活用が喫緊の課題だ。

 

まず、ケアプラン作成に代表される文書作成業務などのICT化が求められる。ICT化に際しては、今後検討が進むケアプランのウェブ入力や電子申請の取り組みと、ケア記録などのICT化をリンクして進めることが必要になる。さらにケア記録の作成業務と報酬請求業務を一気通貫で行える仕組みづくりや、ケア記録の電子文書化・保管化を通じたペーパーレスの推進なども考えられる。

 

しかし、ここで課題になるのは、事業者によって異なる仕様の介護ソフトウエアを使用している現状だ。

 

 

つまり、従来からベンダーごとに交換規約(プロトコール)や、用語・コード、フォーマットがまちまちで、標準的な仕様を備えた製品の生産・提供が行われるには至っていないことが大きな障壁になっている。業界全体を挙げた標準化が実施されなければ、例えば現在進行中のAIケアプランなどが始動しても、大きな効率化にはつながらない。

 

 

こうした動きを加速する上で重要な点は、介護報酬上の評価や行政の取り扱いだ。近時、一部の介護事業所は、ICT化による業務の効率化やロボット導入、さらにAIの活用に積極的に取り組んでいる。

 

しかしながら、介護報酬での評価や人員配置などの規定においては、センサー技術などの限られた部分がようやく反映されてきたに過ぎない。今回の新型コロナ禍で改めて注目されているオンライン会議などの手法についても、以前から一般的には普及していたものの、介護報酬制度などでは評価されてこなかった。

 

 

科学的介護への温度差

 

介護アウトカムに係るデータベースの構築・運営にも解決すべき課題が多い。
いわゆる「介護のデータベース」としては

①介護DB(介護保険総合データベース)
②VISIT(通所・訪問リハビリテーションの質の評価データ収集等事業)
③CHASE(介護に関するサービス・状態等を収集するデータベース)

の3分野が存在する。だが、VISITやCHASEの普及や活用は予想以上に困難な状況で次期改定に向けた議論でも主要な論点になりそうだ。

 

 

18年度介護報酬改定では、VISITを後押しするために、VISITへのデータ提出を要件とする「リハビリマネジメント加算(Ⅳ)」が新設された。

だが、20年に全国758ヵ所の事業者を対象にした調査によると、VISITを現時点で「活用していない」と回答した事業所が85.2%にも上った。活用していない理由では、VISITに入力する負担が「大きい/やや大きい」との回答が9割近くを占めた。

 

 

今年度に本格稼働したCHASEについても、普及促進策として21年介護報酬改定による評価やインセンティブが想定されている。このため19年秋から「介護保険制度におけるサービスの質の評価に関する調査研究事業」が実施された。

 

この調査では、CHASEにも採り入れられているバーセルインデックス(BI)を算定要件としている「ADL維持等加算」の算定状況が対象とされたが、19年4月サービス提供分の給付実績情報において、算定事業所は、通所介護で578事業所(2.6%)、地域密着型通所介護で57事業所(0.3%)に過ぎず、届け出ていない理由で最も多かったのは「BIを用いた評価の負担が大きい」(43.3 %) だった。

 

 

 

VISIT、CHASEの活用促進策については、21年介護報酬改定に向けた議論の中で改めて有効な方策を考えなくてはいけない。このほか、ハードウエア的な課題としてはこれら3つのデータベース間の連結が重要だ。すでに介護DBとレセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)の連結に向けた準備作業は大詰めを迎え、この10月にも実施される予定だ。将来的にはVISITやCHASEなどとも連結を図るべきだが、こちらは全くその緒にもついていない。

 

21年介護報酬改定に向けた議論は、すでに社会保障審議会でスタートしている。介護DXに関しては、秋から始まる介護給付費分科会第2ラウンドでの議論の深耕に大いに期待したい。

*参考文献=遊馬和子、武藤正樹『デジタルヘルスケア』創元社、2020年2月

 

 

 

武藤正樹氏(むとう まさき)

新潟大学大学院医科研究科修了後、国立横浜病院にて外科医師として勤務。1986 年から88 年までニューヨーク州立大学家庭医療学科留学。88 年、厚生省関東信越地方医務局指導課長。国立療養所村松病院副院長、国立医療・病院管理研究所医療政策研究部長。国立長野病院副院長、国際医療福祉大学三田病院副院長・国際医療福祉総合研究所長・同大学大学院教授、国際医療福祉大学大学院教授( 医療経営管理分野責任者) などを歴任。2019年内閣府規制改革推進会議医療介護WG専門委員。 20年7月より社会福祉法人日本医療伝道会衣笠病院グループ相談役、よこすか地域包括ケア推進センター長。

 

 

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