家族の介護をしている人などが気軽に集え、悩みを打ち明けたり情報交換したりする場を設ける動きが近年広がりを見せている。その先駆的存在といえるのが、開設14年目を迎えた「つどい場さくらちゃん」(兵庫県西宮市)だ。その様子をリポートする。
お茶だけだと「会議」になる
10月25日の正午少し前。阪神西宮駅目の前の一軒家に次々と人が入っていく。ダイニングルームに集まったのは、現役の介護家族、元介護家族、「さくらちゃん」と同様のつどい場の運営者など。大学生もいる。
キッチンでは「まるちゃん」こと丸尾多重子理事長が、せっせと昼食を作っている。この日のメニューは、麻婆茄子、カボチャの煮物、卵焼き、サラダなど。「途中で買って来た」と参加者が差し入れしたキムチも食卓に並ぶ。
皆で食事をしながら、介護や医療をはじめ、様々な話題で盛り上がる。特にテーマを決めているわけではない。「皆で『ウダウダ』と話すことが大事」と、まるちゃん。そのためにも「食事」が大切だという。
「おいしい食事を食べながらだと、本音でおしゃべりできます。コーヒーやお茶だけだと、どうしても『会議』になってしまい『何か結論を出さなくては』という気になります」
「つどい場」は、誰もが自由に感情を吐露できる場所。そこには結論などいらない、という。
また、食事提供へのこだわりは、まるちゃん自身が在宅で3人を介護した体験も影響している。
「家族の食事はせっせと作るけど、時間もないため自分自身の食事はおろそかになっていました。家族の介護をしている人たちが、ちゃんとした食事をとれる場所が必要と考えたのです」
2年前までは年中無休状態
家族の介護をしている人たちなどが気軽に集えて本音で語れる場所が必要、と考え「つどい場」を開設したのが2004年。
当初はマンションを借りて運営していたが「部屋が広すぎて、膝を突き合わせて話しができない」との理由から、2008年に現在の一軒家に移転。「皆が集まりやすい様に」と駅近を、「行政の担当者や社会福祉協議会の担当者が来やすい様に」と市役所の近くを選んだ。最近では、現役の介護職員が「自分たちのしている介護は正しいのだろうか?」などと悩み、扉を叩くケースが増えているという。
運営時間は平日の11時〜16時ごろまで。参加は事前予約制。2年前までは「行きたい」という希望があれば365日・24時間対応していた。
介護サービス一切提供せず
まるちゃんのこうした活動に刺激を受け、西宮市には16ヵ所の「つどい場」が誕生した。さらに活動の輪は全国へと広がっている。しかし、どこも運営状況は厳しいものがあるという。
つどい場では、介護保険サービスは一切提供していない。「さくらちゃん」の場合は1回500円の利用料(食事をする場合はさらに500円)のほか、高齢者の話し相手や傾聴を行う「見守りタイ」(1時間600円など)、年に数回のセミナーが主な収入源。最近では利用者の大学生の力を借りてクラウドファンディングを活用するなどして、運営資金を確保しているが、財政は常に火の車だという。
「始めるのは簡単ですが、継続するのは大変です。つどい場の中には財政難で閉鎖してしまったところもあります。皆が集まれる場所を存続させるためにも、気軽に昼食を食べに来てください」
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