介護サービス事業においても、長時間労働の是正などの「働き方改革」の必要性が叫ばれている。在宅介護事業のアイケア(東京都町田市)は、2年前よりICTの積極活用による働き方改革を進め、離職率を10%以下に抑えることに成功している。鎌田陽平社長に、ICT活用のコツなどについて話を聞いた。
スタッフの交流、ICT使い促進
──会社について教えて下さい。
鎌田 東京都町田市を地盤として訪問介護、デイ、障害者向けデイなどを運営しています。また別法人で相模原市で69戸の介護付有料老人ホームを運営しています。
──働き方改革に取り組んだ理由は。
鎌田 離職の防止です。当社に限らず、現在介護の現場で働いているスタッフは、介護の仕事自体は好きだと思います。好きな仕事なのに毎年多くのスタッフが辞めていくのは、会社の体質、就労環境に問題があると考えました。
特に、スタッフが事務仕事に忙殺されてしまうこと、スタッフ間のコミュニケーションが十分に図られていないことが問題と考え、ICTの活用でそれを解決しようと取り組みました。
──現在、どのような形でICTを導入していますか。
鎌田 介護記録が簡単に作成できるシステムと、社内SNSです。また放課後等デイのアセスメントを簡単に行えるシステムも新たに導入しました。これについて当社自身がメーカーの代理店として他社への販売も行っています。
──具体的にはどのような効果を期待しましたか。
鎌田 介護記録システムについては、事務仕事を軽減させ、利用者のケアやサービス品質向上のための時間を捻出することです。
訪問介護事業所ではICT活用によってサービス提供責任者の業務に余裕ができました。そこで、サ責がヘルパーに同行するようにしました。サ責とヘルパーが一緒にいることで、ヘルパーは自分の技能やサービスのレベルをチェックできます。また同行中の会話などからサ責はヘルパーがどのような悩みを抱えているのかなどを知ることができ、結果的に離職を未然に防ぐことにつながりました。
──スタッフの交流を深めることがポイントですね。
鎌田 スタッフに時間的余裕が生まれたことで、ケースカンファレンスの時間を増やすことができ、スタッフ間の連携が図れました。カンファレンスでそれぞれの利用者を担当しているスタッフが、自分の考えを会社に伝える機会も増えましたので、それがモチベーションの向上などにもつながっています。
──社内SNSについてはどうでしょう。
鎌田 在宅系介護事業所は平均的に規模が小さいため、スタッフが日常的に接する社内の人間の数は少なくなります。その結果として、社としての一体感が希薄になる、事業所間の連帯感が生まれにくい、という課題があります。
社内SNSがあれば異なる事業所のスタッフ間で気軽に情報交換ができます。また、スタッフ同士の電話も減らすことができますので、結果的に労働時間の短縮にもなります。
「導入後のビジョン明確に」
──ICT化を進める上で、留意した点はなんでしょうか。
鎌田 単に「ICT化で効率を上げる」のではなく「効率を上げた結果、会社として何をするのか」をしっかりスタッフに伝えることです。
当社の場合は「ICT化により利用者に寄り添う時間を作り出す」という最終的な目的を全スタッフにしっかりと落とし込みました。幾ら効率化が図れるといっても、新しい仕組みを導入することに対してはスタッフの反発もあります。ビジョンがなければ、スタッフがICT機器を使いこなさなくなります。
社内SNS記入 深夜早朝は禁止
──導入した後のことを考えることが大切なのですね。
鎌田 社内SNSについては、利用に際してのルールをしっかりと決めました。プライベートでもSNSでの何気ない書き込みで人間関係がこじれたりしますので、書き込みに際しては「個人的な批判、攻撃は禁止」としています。
さらに「22時~7時の間は書き込み禁止」ともしています。当人は気軽な気持ちで夜中や早朝に書き込んだとしても、書き込みがあれば他のスタッフはその内容を確認しなくてはなりませんから、その時間も「働いている」ことになります。「いつ書き込みがあるか」と深夜や休日に気にしながら生活するのは働き方改革の趣旨に反していると考えています。
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