入国管理法の改正で5年間に35万人の外国人が新たに日本国内で働くことになった。最も多い介護業界で6万人だ。2018年6月末時点で在留外国人は263万人。今でも5年半前から60万人も増えている。多くの先進諸国を上回る増勢だ。それでも人手不足、この先35万人ではとても充足できるはずがない。
人手不足の根本原因は出生数の激減による少子化だろう。出生数の回復に全政策を傾注することこそが肝要だ。
どの程度の少子化なのか。2017年の出生数は94万6000人。1973年には209万2000人だったが、40年経ったら半分になってしまった。
当然のことながら、就業者も減少を続ける。18年の就業者は6580万人だが、7年後には230万人も減り、40年にはさらに700万人も少なくなる。逆に医療福祉の従事者は増え、40年には5人に1人の割合で必要だ。
連日の国会審議では技能実習生の劣悪な労働実態が次々明るみに出て、人手不足の根本が問われなかった。少子化問題が俎上に上らなかったところへ、入管法が成立した直後に、少子化対策に逆行する声が政権与党から出てきて驚かされた。
「日本の伝統的な家族観を壊してしまう」と言う声である。保守系議員の間に根強い主張だ。実は、全く同じ論調が20年以上前に繰り出された。介護保険法の国会審議の最中である。「家族が身内の介護をするのは日本の伝統的な美風である。介護の社会化はそれに反する」と亀井静香政調会長などが言い立てた。
今回は、来年度の税制改正の中の「ひとり親への住民税・所得税」問題である、所得税で最高35万円、住民税で最高30万円の「寡婦(寡夫)控除」が争点になった。対象は婚姻歴がある人だけだが、公明党が「未婚の1人親が外れているのはおかしい。婚姻歴の有無で税負担が異なるのは不平等ではないか」と改正を求めた。
税制の専門家からは「税の本来の姿である担税力、即ち払える経済力に即した方法としてもっともなこと。法律婚主義から離脱する良い機会」と評価された。
これに対し自民党内からは、先述の「伝統的家族観」が持ち出され反論が展開された。最終的には、年収204万円以下なら住民税を非課税とする対象に未婚の1人親を加え、かつ、年収365万円以下なら年1万7500円の手当てを支給して税優遇の格差を少し埋めることで両党が妥協し、寡婦控除の改正は見送った。「痛み分け」となったが、自民党内の反論の中で、「未婚者の出産を助長しかねない」との発言は見逃せない。
「出産は婚姻が前提と言う考え方のために少子化が止まらない」との指摘もある。
スウェーデンでは1988年に施行した「サムボ法」で、同棲者に婚姻の夫妻と同等の権利を与えている。サムボ(同棲)後に法律婚となるケースが多く、個人の多様な選択肢を重視する。出生数の婚外子比率は60%ほどに達し、なんと合計特殊出生率は1・9まで回復している。日本の1・4とは雲泥の差であり、やはり2・0に近付いたフランスでも、20年前の民法改正で「連帯市民協約(PACS)」が出来て事実婚が広がった。婚外子比率は50%に近い。
日本では事実婚への偏見が強く、婚外子は2・1%とあまりに少ない。社会的制約に縛られない子育てを容認するのが世界の流れだ。日本の少子化は、自由な判断を受け入れない社会への女性陣による「静かな出産ストライキ」だろう。少子化の元凶は旧世代の旧態依然とした意識にあり、まずは法制度の改革が必要だ。
ジャーナリスト
元日本経済新聞編集委員
浅川 澄一
1971年、慶應義塾大学経済学部卒業後に、日本経済新聞社に入社。流通企業、サービス産業、ファッションビジネスなどを担当。1987年11月に「日経トレンディ」を創刊、初代編集長。1998年から編集委員。主な著書に「あなたが始めるケア付き住宅―新制度を活用したニュー介護ビジネス」(雲母書房)、「これこそ欲しい介護サービス」(日本経済新聞社)などがある。
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