「現場への権限委譲を」
医療・介護分野の様々な立場の有識者に高齢者虐待問題について意見を聞く連載企画の6回目。本紙連載コラムでもお馴染みジャーナリスト浅川澄一氏の登場だ。
マニュアルでは対応が不可能
--高齢者虐待問題の原因はどこにあると考えていますか。
浅川 特に多くの高齢者住宅を展開する様な事業者の場合は、本部に「現場に任せる」という意識が無いことが原因でしょう。現場が権限を持っていれば、何事も現場は「自分たちの責任でやろう、解決しよう」と考えます。しかし、「今日のスケジュールは・・・・」と本部が決めた分刻みの時間割に沿って行動しているだけでは、現場スタッフは仕事に対するモチベーションも上がりませんし、スキルも身につきません。
--小売りや飲食業などでは、何百店といった規模のチェーンが多数存在し、本部主導による詳細なマニュアルに基づく業務の均一化が図られていますが。
浅川 それらの事業と介護が異なるのは、介護は人対人のサービスで、しかも相手は認知症などである、ということです。つまり、どれだけマニュアルを定めてもそこで想定していない事態が起き、ケースバイケースで対応しなくてはならないことが頻繁にあるのです。
それを理解せず、コンビニエンスストアやファストフードなどと同様の手法で介護事業も多店舗展開ができると思ってしまったところに問題があります。
--そうした事業者が今から取るべき対策は。
浅川 勇気がいることですが、経営者は思い切って現場に権限移譲をすべきです。その地域・利用者の状況などに応じてホーム長などの権限で最適なケアを行える仕組みづくりです。
例えば食品小売りのチェーンでも、店長の権限で「明日は近所の学校で運動会があるから」などの理由で、弁当の材料になるような食材の仕入れ量を普段よりも増やしたりします。本部は「明日どの地域で運動会があるか」などをいちいち把握している訳ではありません。現場主導で動くことが、企業にとっても利用者にとってもいい結果に結びつくのです。
--急速な多店舗展開が虐待の要因になるとは考えられますか。
浅川 人材教育・育成が追い付かない、という点で要因になることはあるでしょう。また、新規開設件数が多いと、ホーム長などの転勤も多くなります。そのことが「ここの現場・地域に根付いて働く」という意識が薄まる結果になるとも言えます。
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