公益社団法人全国老人保健施設協会(東京都港区)は昨年、次期介護報酬改定への要望をまとめた署名活動で、介護現場で働く多職種に声をかけ、182万筆を集めるにあたって中心的な役割を果たした。
今後一層多職種連携が必要とされる現場においての一つの象徴的行動となった。改定を目前に、今の介護現場と今後の課題についてどう捉えているのか。東憲太郎会長に話を聞いた。
──マイナス改定との見方が強かった介護報酬改定が0・54%増で決着。財政の厳しい中でのプラス改定となりましたが、現状をどのように受け止めていますか。
東 ホっとしたというのが正直な感想です。議論の前提がマイナス改定ありきだったこともあり、3600を超える老健施設の会員の危機感も強かった。2015年の介護報酬改定が非常に厳しいものであったという前提での微増ですが、17年の処遇改善加算に続き、2回連続でのプラス改定は非常に大きい。ただ、基本報酬単価の点数はこれからです。現在、この0・54の振り分けの議論が行われています。基本的には在宅支援への方向付けはできていると考えるので、在宅復帰率をいかに高めることができるかが課題です。期待される役割がより明確化され、それにどう応えられるのかが問われる改定だと思っています。
──介護福祉士への加算も話題になりました。
東 勤続10年以上の介護福祉士に月額8万円相当の加算ですね。この、経済政策パッケージのインパクトは非常に大きかったと思います。総額1000億円も大きいですが、政府がこのような意思表示をしたことに大きな意味があります。専門学校を目指す学生数の回復や潜在介護福祉士の復職、現在働いている人のモチベーションに繋がればと期待しています。
また、この政策パッケージは、従来の処遇改善加算とは違い、それ以外の用途に使うことが可能となりそうです。つまり、介福士に月8万円という使い方もあれば、介福士に4万円とリハ専門職に4万円、あるいは介護助手を雇うなど、現場の裁量にまかされる方向で検討が始まっています。施設によって現場環境の改善に、より適切な形を選択できるでしょう。
──昨秋の署名提出では、介護関連団体11団体の共同行動が話題になりました。
東 今後に繋げていきます。今後は常に11団体でということではなく、イシューによってさまざまな形で連携していく予定です。さしあたって介護福祉士国家資格を取得できなかった場合の海外留学生に対しての在留資格について、3団体での要望提出を考えています。
──今回の共同行動で集まった署名の数は。
東 約182万筆でした。この数を、多いとみるか少ないとみるか。私自身は業界外にも訴えが届いた、と捉えています。この数は、介護従事者だけではとうてい達成できなかった数字です。施設利用者やその家族から数多くの賛同を得られた、という実感はあります。
──プラス改定と介護の重要性について、社会的コンセンサスの形成が重要ですね。
東 介護保険は年金や健康保険などと違い、2000年に始まった比較的最近の制度です。歴史も浅く制度も複雑で、業界にいる人でもなかなか全貌は理解できません。また、徴収される保険料は、その必要性から当初の2倍にもなっています。しかし、これまでに猛反対が出て紛糾したということはありません。これはすごいことです。介護がなくてはならないものと理解されているからであり、そういう意味では、社会的なコンセンサスを得ているといえるでしょう。
ただ、介護が話題になるのは事故や事件が起きたときばかり。これではいけません。もう少し、われわれも介護業界から情報発信に努めなければなりません。
──具体的には、何をされるのでしょうか。
東 これまでは会員向け、いわば内向きの情報発信ばかりをしていたのですが、それではいけない。外向けの広報活動を充実すべく、3種類のパンフレット作成を計画しています。介護の素人ともいえる一般の人向け、関係職種である医療従事者やケアマネ向け、外国人向けの3種類です。外国人向けは、介護職場で働く予定の人を想定しています。広く理解してもらえるよう活動していく予定です。
──今後の厳しい人手不足にはどう対応しますか。
東 海外人材に関してはきちんと受け入れるのであれば、いろいろと考え工夫する必要があります。しかし、超高齢社会をどう乗り越えるのか、世界中が日本を注視しているときに「海外人材に頼って乗り切りました」でよいのでしょうか。
私は「日本は超高齢社会を高齢者に活躍してもらって乗り切った」と言いたい。周知の事ですが、介護現場での本来業務以外の周辺業務は多く、その担い手としてぜひ、元気高齢者を位置づけたい。昨年度、経済産業省で「将来の介護需要に即した介護サービス提供に関する研究会」の報告書があがり、取り組みが進められています。元気高齢者を介護助手として採用するスキームを全国に浸透させていきたいと考えています。
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