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情報共有でエビデンス構築
公益社団法人全国老人福祉施設協議会(東京都千代田区)の石川憲会長は中重度者を支えることを目的に、医療連携や看取り介護、自立支援に注力している。今年度の報酬改定、特養における看取りの在り方などについて石川会長に話を聞いた。

 

──2018年度の報酬改定の影響は。
石川 厳しい社会保障財政の中、0・54%のプラス改定が実現したことについて大いに評価している。特養では1・8%の基本報酬アップとなり、3割以上が赤字経営という厳しい介護現場の声を政府に届けられた結果だと自負している。

一方で、新たに設けられた加算項目は、診療報酬と同時改定ということもあり、配置医との体制強化や外部リハ職の活用をはじめ、医療・介護連携を促すメッセージが込められた内容が中心となった。プラス改定の財源が薬価などの医療分野ということもあり、次期改定を含め今後を示す明確な方向性が示されたと受け止めている。

 

 

──特養の医療連携は。
石川 特養においては、中重度要介護者をいかに支えるか、看取り介護の価値をどのように一層、高めていくかという点で、医療との連携は不可欠だ。
少なくとも次期改定までに、具体的な医療との連携機能強化・仕組みづくりを進めるべきだと思う。それは地域包括ケアシステム実現のための試金石となると思う。

最も大切なことは、利用者・患者を中心に連携体制を構築し、介護情報を医療提供の基礎となる情報として届け、適切な医療の選択肢を引き出していくことだと考えている。医療が介護のエビデンスとなり、介護における生活情報が、医療のエビデンスとなる流れを早期に組み立てることが肝要だ。
これらを実現するには、介護現場における医療の提供を当たり前のことにしていくこと、基礎的な医療知識を介護現場に浸透させ、一定程度の医療行為をリスク管理とともに実践していくことが第一歩であると思う。

 

 

アウトカム評価に意思や満足度加味
医療知識の浸透

──自立支援・重度化防止に対するアウトカム評価に対する取り組みは。
石川 介護のエビデンスを求めていくという点では、今改定は自立支援の考え方に立った、いわゆる「科学的介護」の議論が盛んに交わされた。
自立支援は介護保険制度の基本精神であり、テーマとして掲げられることは正当であると考えている。しかし、それが加算制度、ひいてはインセンティブやディスインセンティブの概念と紐づけられた状態で議論がスタートしたため、数値的評価を急ぐ宿命を背負い、可視化が容易な「〝ADLに特化した〟自立」の議論に終始する結果となったことは、誰にとっても不幸だったと思う。
介護が専門性をもって利用者の生活を支えるものとすれば、目指すものは利用者のQOLを最大化することだろうと考えている。その数値化は困難だが、それを諦めた議論は認められるべきではない。

 

厳しい社会保障財源の中で、アウトカム評価を活用し、効果的なサービスを提供していくことは不可欠だが、その延長にいかにして利用者の意思や満足を加味していくか。これは、次期改定の大きなテーマであると同時に、介護そのものに問われる命題であると考えている。

 

 

──看取りに向けた特養の役割については。
石川 特養は中重度要介護者に対する介護を中心としているが、その中で看取りをいかに豊かにしていくか、そのためのケアのあり方は、特養の存在意義そのものと言ってもよい重みを有し、絶対の使命であると考えている。
その意味で言えば特養は、その人が何十年もそのまちで生きてきた歴史の集大成を、一緒に形成する役割を担っていると言える。

 

 

“まちづくり”を実現
“老施協ビジョン”策定

──今後について。
石川 40年には団塊ジュニアの世代が介護問題の当事者になっていくなかで、地域包括ケアシステムは「まちづくり」をいかに実現していくかというステージに入った。
協会では、経営戦略室を設置し、「老施協ビジョン2035」の策定にとりかかっている。様々な実践からなるエビデンスデータの集積と活用をもとに、生まれてから亡くなるまで「住まう」ことを意識したまちづくりの視点、AIを活用した未来型の介護のあり方など、あらゆる可能性を分析・検討している。
当協会の本来の使命とは、介護現場の声をもとに、ビジョンを示すことであると考えている。

 

 

※メモ※
公益社団法人全国老人福祉施設協議会は、老人福祉施設・事業所の代表者を会員としており、会員数は約1万1100。1962年の設立以降、高齢者福祉の増進に関する調査研究、研修、普及啓発活動、相談支援などに取り組んでいる。

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