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第87回 固定残業代制の注意点
残業代支払い額 確定不能と判断

 

 

残業代請求受けるリスクも

割増賃金の支払について、一定額の割増賃金を毎月支払っておく、いわゆる固定残業代制度を採用されている会社は少なくないと思います。

しかし、固定残業代制度は、通常の時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分の判別をしっかりとつけるようにしておかなければ、別途残業代請求を受けるリスクがあります。

 

興味深い最高裁判例(最判平成29年7月7日裁判所HP参照(平成28年(受)第222号)があります。
本件は、簡単にいうと、医師の固定残業代制度の有効性が問題になったケースです。
本件では、通常の時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分の判別ができない制度となっていました。

 

最高裁は、まず、割増賃金をあらかじめ基本給等に含める方法で支払う場合においては、労働契約における基本給等の定めにつき、通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することができることが必要であり、この割増賃金に当たる部分の金額が労働基準法37条等に定められた方法により算定した割増賃金の額を下回るときは、使用者がその差額を労働者に支払う義務を負うことを確認しました。

 

その上で、本件では、時間外労働等に対する割増賃金を年俸1700万円に含める旨の合意がされていたものの、このうち時間外労働等に対する割増賃金に当たる部分は明らかにされていなかったため、本件合意によっては、支払われた賃金のうち時間外労働等に対する割増賃金として支払われた金額を確定することすらできず、支払われた年俸について、通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することはできないと判断しました。

 

労務の提供について自らの裁量で律することができたことや給与額が相当高額であったこと等は考慮されず、結論として、年俸の支払により、時間外労働及び深夜労働に対する割増賃金が支払われたということはできないとされました。
固定残業代制を採用されている会社は少なくないですが、通常の時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分の判別はしっかりとつけるようにしておく必要があります。

 

 

【著者紹介】
弁護士法人ALG&Associates執行役員・弁護士

家永 勲

【プロフィール】
不動産、企業法務関連の法律業務、財産管理、相続をはじめとする介護事業、高齢者関連法務が得意分野。
介護業界、不動産業界でのトラブル対応とその予防策についてセミナーや執筆も多数。

この記事は有料会員記事です。
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