ビジネス弁護士の最新リーガルノート -松田綜合法律事務所―
労働時間の客観的把握義務、対象拡大
働き方改革関連法による法改正には、本年4月1日から施行される項目もいくつかあり、今回はその中から、ほぼすべての使用者に適用のある、①年次有給休暇の年5日付与義務、および、②労働時間の客観的把握義務について取り上げます。
▼年休5日付与義務制定の背景
我が国の年休消化率は低いと言われており、労働政策研究・研修機構が2010年に実施した「年次有給休暇の取得に関するアンケート調査」によれば、年休を取り残す理由の上位には「職場の他の人に迷惑になるから」「仕事を引き継いでくれる人がいないから」「周囲の人がとらないので年休が取りにくいから」などが入っています。この背景には、出勤している人は休暇を取っている同僚の仕事をフォローするものだという職場風土や、担当者が休みでも他の担当者において対応可能であるべきという商取引上の慣習が存在することが推測されます。このような風土や慣習を強制的に変えていくことが、年休5日付与義務の趣旨であると考えらえます。
▼年休5日付与義務の内容
かかる趣旨の下、使用者は、年間10日以上の年休を付与される労働者に対し、年間5日間の年次有給休暇を現実に付与する義務が定められました。この義務は、現実に最低5日は年休として休ませる義務であり、いわゆる買い取りによって付与と同等に取り扱うことは許されません。そして、労働者が自ら5日間の年休を取得しない場合には、使用者が日付を指定して(時季指定)取得させる義務があることになります。なお、この5日間には、労働者が自ら決めて取得した日数を含めてよいことになっています。
▼必要となる対応
年休5日付与義務の制定に応じて、各使用者が必ず行わなければならないのは、①就業規則への使用者による時季指定に関する定めの追加、②年休管理簿の作成と3年間の保存、③年休5日の現実の付与、の3つになります。
必要な規程の整備、管理簿の整備とともに、年間数回のチェックポイントを設けて、年休の消化状況を段階的に確認するなどの取り組みが必要になります。
▼労働時間の客観的把握義務
従前、厚生労働省の作成したガイドラインによって、労働時間把握をタイムカード等の客観的な方法で行うよう、行政指導が行われてきたところです。このガイドラインが、今般の働き方改革関連法によって、労働安全衛生法における法律上の義務に昇格しました。
またこれと同時に、従前は労働時間把握の対象となっていなかった、管理監督者や裁量労働制適用対象者についても、健康管理の観点から、同じくタイムカード等の客観的な方法による労働時間の把握義務が課せられることとなりました。
当初法案に盛り込まれていた、裁量労働制の適用対象の拡大は、国会での議論の結果、今回の働き方改革関連法では見送られたという経緯がありましたが、労働時間の客観的把握義務に関しては、裁量労働制および管理監督者を対象として導入されており、この対象労働者の範囲拡大は、見落としがちですので注意が必要です。
この記事が気に入ったら
フォローしよう
最新情報をお届けします
Twitterでフォローしよう
Follow @kj_shimbun