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訪問介護事業など手がける、さくらケア、うめケア(ともに東京都世田谷区)は昨年12月1日、大東建託の100%子会社となった。両社の創業者・前社長である荒井信雄氏(現相談役)に、M&Aの理由などについて話を聞いた。

 

 

一般消費者にも高い知名度あり
──会社を譲渡した理由は何でしょうか。
荒井 この先介護業界の人手不足はますます深刻化する、という点です。「さくらケア」「うめケア」という社名では、知名度もありませんし、新たに人材を確保することは不可能になっていくでしょう。人を確保できなければ介護事業は立ち行かなくなります。会社を今後も存続させるには、人を呼び込める知名度のある大手企業のグループになることが一番と考え、昨年2月ぐらいからM&Aコンサルティング会社に相談していました。

 

──大東建託に決めた理由は。
荒井 M&Aコンサルティング会社が候補として持ってきた会社4社のうちの1社でした。もっとも当初は大東建託の社名は伏せられていましたが。結果的に大東建託は当社が求める譲渡先の条件をすべて満たしていました。

 

──具体的に、どのような点が条件に合致しましたか。
荒井 まず、M&Aの理由として考えていた「知名度の高い企業のグループになる」という点です。大東建託はテレビCMもやっており、一般消費者に高い知名度があります。採用や利用者獲得の上で大きな武器になります。次に、子会社のケアパートナーで介護事業を行っており、介護事業に関する理解があります。介護が全く初めての会社に譲渡すると、短期間で売却されてしまう可能性があります。
最後に、ケアパートナーの介護事業はデイサービスが主であり、さくらケア・うめケア両社とは事業領域が重なりません。大東建託グループ入りしても、自分たちのスタイルで事業が行えます。

 

 

中小企業では人材確保困難
福利厚生充実等社員に利点
──社員の反応はどうでしたか。
荒井 取締役など一部の幹部社員には事前に伝えていましたが、大半の社員には譲渡前日に伝えました。当然、皆驚きましたが、一番強い反応は「自分たちの雇用や給与はどうなるのか」でした。大東建託との間では「社員の給与は1円も下げない」ということを譲渡の条件にしていましたので、その点を説明し、安心してもらいました。
社員は自分の生活が重要であり、会社の株主や社長が誰なのか、などは大きな問題ではありません。むしろ大手企業のグループになることで、福利厚生などは充実します。そうした点を考えても社員にとってもメリットが大きいといえます。結果的に、今回のM&Aを理由に退職した社員はいませんでした。

 

──自身が企業譲渡を経験して、他の経営者に伝えたい点は。
荒井 経営者にとって終着点は「廃業」「上場」「M&A」しかありません。社員や利用者のことを考えたら廃業は絶対に避けるべきです。また、上場は会社を株主に譲渡することと同義ですから、結果としては「会社を誰かに譲渡する」こと以外に選択肢はありません。それでしたら、なるべく早く、自身の体力や判断能力が衰えないうちに行うべきです。会社を譲渡する理由として、よく「経営者が高齢になった、健康状態に不安を抱えるようになった」というものがありますが、それでは譲渡までの時間的な制約も多くなり、結果的に譲渡先の選定や譲渡条件が甘くなります。

また、繰り返しになりますが、今後の人材確保や社員の福利厚生を考えたら譲渡先は知名度の高い大手・一流企業であるべきです。中小企業どうしでのM&Aでは売上は増えることになりますが、それ以外の面でのメリットがありません。

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