若手介護職員に対する奨学金返済支援事業を行う自治体が近年増えている。金額や支給範囲は自治体によって様々。大学生の42・5%は奨学金を受けており、奨学金返済支援制度を有していることは若い世代にとって魅力となるだろう。
日本学生支援機構によると、42・5%の大学生が無利子・有利子の奨学金を借り入れている(2016年度調査結果)。現在、大学卒業後に始まる奨学金返済を支援する事業が全国の自治体で広まりつつある。例えば以下の様な例だ。
〇宮城県石巻市、大阪府大東市──有資格者かつ市内在住者を支援
大東市と石巻市では介護福祉士などの資格を持ち、市内在住・市内事業所に勤務する介護職員を対象に支援を行う。
〇北九州市──資格なしでも受給可能
北九州市は介護福祉士の資格取得を目指し、市の認定事業者に就職かつ就職後、市内在住予定の17~20年卒業・卒業見込者に向けて支援を行う。
〇和歌山市──3年間勤務後の支給で長期定着を狙う
和歌山市は、市内在住かつ大学3年生時点で事業参画企業に就職を希望する学生を対象とした支援を行う。学生が就職し3年経過後、4年制大学出身者の場合一括で上限100万円を市と企業が折半して援助。就職して3年後に支給することで、職員の定着率を高める狙いだ。
〇盛岡市──1年以上雇用契約者なら受給可
盛岡市は市内介護事業所と1年以上の雇用契約を結んだ職員に対して支援を行う。市内在住や資格所有が必須でないため、他の自治体より要件が緩やかだ。
事業が広まれば、奨学金申請・受給状況調査で「希望したが申請しなかった」と答えた者のうち「貸与のため卒業後の返還が難しいのでやめた」を理由にあげた層が奨学金借り入れに踏み切りやすくなり、介護職志望者の裾野が広がるだろう。
〇東京都──事業者のレベルアップも期待
介護事業者が活用を申請
奨学金返済を手当で
東京都は2018年度新規事業として奨学金を返済する新卒者などへの育成に取組む事業者を支援する「介護職員奨学金返済・育成支援事業」を開始した。
この事業は、都内に所在する介護保険事業所が、採用した若い世代の奨学金返済額を手当てとして支給する場合に都がそれを支援するというもの。都に申請を行うのは介護事業者だ。申請を行える事業者の要件は「介護職員処遇改善加算Ⅰ」を取得済みかつ「資格(介護職員初任者研修、実務者研修及び介護福祉士国家試験)取得支援制度」を有していること。申請後は奨学金返済相当額を手当てとして支給する制度を創設する必要がある(すでに創設済みの場合は不要)。
昨年12月に行われた交付申請に関する説明会には2日間でのべ約300事業者が参加。注目度の高さが伺えた。参加者からは「手当対象者から非常に喜ばれている」「若い介護職員の励みになる」との声が寄せられた。18年度の事業対象職員数は200人弱。19年度以降も継続して事業を行う。19年度の事業者向け説明会は、6月7日に都内で行う。
東京都福祉保健局介護保険課の谷山倫子課長代理は「若いうちから介護職に就き、業界全体の人材不足解消とレベルアップに繋げられれば」と語った。
都では以前から同様の奨学金助成事業を保育士にも行なっており、昨今の介護人材不足から介護職にも適用するに至った。
〇神奈川県厚木市/愛川町──転入・復職含めた施策
神奈川県厚木市は介護職員確保事業として、奨学金支援だけでなく、市への転入、復職を含めた3つの施策を2018年度から開始している。愛川町は19年度から厚木市同様の3施策を開始した。
奨学金返還支援事業の対象者は事業所に入職後3年未満かつ市内在住・介護福祉士などの資格を持つ常勤介護職員。奨学金返済額の半分を市が最大で年間20万円支給する。18年2月末時点で4人への給付が決定している。
加えて、市内に転入し、市内の事業所に入職した職員に対して最大20万円を支給。また、市内に在住し1年以上ブランクのある職員が復職する場合は20万円を一律で支給。18年度の給付対象者は転入9人、復職5人。
「奨学金返還支援と転入・復職支援を合わせて、市内への移住・定住強化と介護人材確保を進めたい」(厚木市武藤慎一福祉部兼介護福祉課長)
〇東京都千代田区──都とは別に職員向け支援
東京都千代田区は2018年度から「千代田区介護人材奨学金返済支援事業」を開始。
対象となるのは区内の介護施設などに勤務する職員。東京都と異なる点は、申請者が事業者ではなく介護職員本人であること。都の事業は事業者が申請要件を満たす必要があるが、千代田区の場合は、本人が要件を満たしていれば支援を受けることができる。
上限は年額24万円。都の制度を利用している場合は都の支援額を除いた支給となる。
18年度は1人に対して補助が決定。
「千代田区は住む場所というより働く場所。労働環境を改善する試みを強化していきたい」(千代田区清水直子保健福祉部高齢介護係長)
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