昨年4月の制度改正で身体拘束に関わる規制が厳しくなりましたので、自治体などの監査でも身体拘束では?と指摘されることが多くなりました。しかし、身体拘束の判断基準がはっきりせず、「的外れな指摘」も多く、現場に混乱を招いています。身体拘束は外見的に判断されるべきではありません。その人の行動を抑制しているか、その抑制による利益と弊害どちらが大きいのかなど、その人にとってプラスかマイナスかで判断されるべきです。的外れな指摘には、毅然として反論しなければなりません。私が相談を受けた3つの事例をご紹介します。
■Y字ベルトは身体拘束だから止めなさい
ショートステイの利用者Aさんが車椅子のY字ベルトをしていたのが市の監査担当者の目に留まり「明らかな身体拘束、すぐに外しなさい」と指摘されました。Aさんには重い半身麻痺と体幹機能障害があり、車椅子移動で座位が安定せず転落する危険があるので、夫が上半身を車椅子に固定していました。本人は認知症が無く、ベルトがあることで安心できるというので、夫がベルトを購入して装着していたのです。夫の了解をとってベルトを外しましたが、車椅子移動中に上半身が大きく傾き、食事の姿勢もうまく取れず困ってしまいました。どうしたらよいでしょうか?
体幹機能障害によって生活行為に必要な姿勢の保持ができず、ベルトで姿勢を保持しているのですから、ベルトは間違いなく福祉用具です。最終的には、医師の意見書を監査担当者に提出することで解決しました。
■居室の施錠は身体拘束か?
胃ろうで寝たきりの利用者Hさんの部屋に、認知症の利用者Bさんが勝手に入り込んでしまいます。一度経管を抜去してしまったことがあり、Hさんの家族から「部屋の扉に鍵を掛けて欲しい」と要望があり、職員が見守れないときは施錠することにしました。ところが、監査時に「居室の施錠は身体拘束になる」と指導がありました。施設では、Bさんの身体拘束を検討しましたが、緊急やむを得ない場合にも該当しないので悩んでしまいました。どうしたらよいでしょうか?
寝たきりのHさんは移動ができませんから、居室施錠は行動を抑制しておらず身体拘束には該当しません。しかし、居室の施錠は防火安全上の問題があります。火災発生時に鍵がかかっていたら避難の障害になりますから、消防署の立入り検査で指導されてしまいます。
あれこれ試行錯誤しましたが、最終的には「チャイルドガード」という、幼児が扉を開けられないようにする器具を、居室のドアの高い位置に設置しました。Bさんは開けられませんが、緊急の際にはすぐに外れるので防火安全上の問題もクリアして解決しました。
■センサーマットは身体拘束だから外しなさい
老健に監査に入った市の担当者から、「センサーマットは身体拘束になるので全て外しなさい」と言われました。老健では「センサーマットの設置自体は行動抑制には当たらない」と主張しましたが、「利用者を監視しているので身体拘束である」と言い放ちます。
「他の自治体では認められている」と主張したら、「市独自のルールだ」と言うのです。この「市独自のルール」を主張する監査の担当者に、どのように対抗したらよいでしょうか?
昨年の介護報酬改定で特養などの「夜勤職員配置加算」が改定され、「見守り機器の導入により、効果的に介護が提供できる場合」に、介護報酬が加算されることになりました。つまり、介護保険制度によって、センサーマットの設置が評価されているのです。この事実をどう考えるのかを、独自ルールを主張する市の担当者に質してみました。回答は「今度だけは例外的に認める」だったそうです。
このように、自治体担当者が身体拘束の基準や規制の意味を理解していないケースが多々あります。利用者の不利益につながるような的外れな指摘には、毅然として反論しなければなりません。
安全な介護 山田滋代表
早稲田大学法学部卒業と同時に現あいおいニッセイ同和損害保険株式会社入社。2000年4月より介護・福祉施設の経営企画・リスクマネジメント企画立案に携わる。2006年7月より現株式会社インターリスク総研、2013年4月よりあいおいニッセイ同和損保、同年5月退社。「現場主義・実践本意」山田滋の安全な介護セミナー「事例から学ぶ管理者の事故対応」「事例から学ぶ原因分析と再発防止策」などセミナー講師承ります。詳しくはホームページanzen-kaigo.comで。
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