連載 ビジネス弁護士の最新リーガルノート ―松田綜合法律事務所―
「変更等明示」必要性認識を
高齢者施設において人手不足の状況が続く昨今においては、人材の確保は重要な課題であり、その最も根本的な解決策の一つは、採用を効果的に行うこと言えます。
人材募集広告を行うにあたっては、色々と工夫を凝らされていることと思われますが、記載の方法や採用の手続きにおいて法律上順守すべき明示事項などがありますので、本稿ではこれを解説します。
▼募集や求人に明示必須の事項
人材募集の際や求人申し込みの際に明示しなければならない事項として、職業安定法等の法令に定められたものは、次のとおりです。
①業務内容、②契約期間、③試用期間、④就業場所、⑤就業時間(始業終業時刻、残業の有無、休憩時間、休日)、⑥賃金(固定残業代がある場合はその旨)、⑦加入保険(健康保険、厚生年金、労災保険、雇用保険)、⑧募集者の氏名又は名称、⑨派遣労働者として雇用する場合その旨。
これらは、原則として書面により明示しなければなりませんが、求職者が希望する場合には電子メールによることも可能です。
いわゆる求人サイトなどを利用する場合には、これらの項目が含まれるようなフォームが用意されているものと思いますが、すべてがカバーされていない場合もあり得ますので注意が必要です。
▼広告と異なる条件で採用する場合
募集広告に記載した内容と、実際に雇用契約を締結する内容とは同じであることが望ましいところですが、やむを得ず異なる内容となる場合には、「そのような条件だとは聞いていなかった」としてトラブルに発展する可能性が高いため、採用にあたっては、書面を用いて労働者に対して明確に説明し、十分に納得してもらう必要があります。
とりわけ、広告に記載した内容のうち、先述の①~⑨の法定の必須記載事項に関して、広告と採用条件とが異なってしまう場合には、法律上、変更等について書面の交付または電子メールによる「変更等明示」が義務付けられていますので注意が必要です。この書面等による変更等明示義務は、口頭の説明により本人が納得していたとしても免れるものではなく、必ず書面または電子メールでの通知が必要です。
▼「変更等」とは
このように書面による明示が求められる「変更等」には、変更だけでなく、「特定」「削除」「追加」も含まれます。「特定」は多少わかりにくい概念ですが、例えば、募集広告では「月給20?25万円」と書いてあったものを「20万円」と決めることが「特定」に該当します。この場合も、書面等で変更等明示をする必要があります。
▼変更等明示の記載方法
変更等明示の書面においては、変更内容が十分に理解可能であるよう記載しなければなりません。「変更前」「変更後」を併記するなど、広告における明示内容と変更内容等とを対照することができる内容であることが望ましいとされています。
また、変更等明示の書面通知は、採用に際して交付する労働条件通知書で兼ねることも許容されていますが、その場合は、変更内容部分を下線や色文字などで目立たせるか、変更内容を注記するなどすることが必要です。
松田綜合法律事務所
弁護士・社会保険労務士 岡本明子氏
高齢者施設・介護事業所チーム、保育所・幼稚園事業チームを設け、重大事故対応・対策、問題職員対応、就業規則等の改訂、外国人雇用、利用者・園児家族対応、契約問題、訴訟事件など、施設経営に関わる全ての法律問題に対し、経営者の立場に立ち、業界の特殊性を考慮したアドバイスを提供。
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