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---英国 高齢者介護視察ルポ「看取り・認知症ケア最前線」---

スコットランドの首都はエジンバラだが、最大都市はグラスゴー。産業都市として英国で4番目の60万人近い人口規模だ。
その中心部にスコットランド・アルツハイマー協会の本部がある。世界の認知症ケアを牽引してきたのが同協会と言っても過言ではないだろう。

認知症の本人たちがグラスゴーで世界初のグループを結成し、自身の言葉で社会や自治体に発信してきた。2002年に発足した「スコットランド認知症ワーキンググループ(SDWG)」である。その立上げを促したのがアルツハイマー協会でもあった。
同協会は、スコットランド政府と定期的な協議を行い、認知症の人たちの「思い」を政策に取り込むよう訴えてきた。
「09年に認知症の人の権利憲章が制定され、14年にはグラスゴー宣言が成されました。これらにより、病院や施設での長期の入院・入所のため、人権が損なわれていた状況が大きく改善されてきました」と、同協会のジム・パーソンさん。

人権重視が具体的に表れたのは初期診療の場だ。認知症の専門機関(メモリークリニック)で診断された認知症の人が10年前は3割しかいなかったが、今では半数に達した。自宅に引きこもりがちな認知症の人が、きちんと診察を受けるようになった。「ここからケアが始まるのですから重要な指標です」
同協会は、デイサービスや訪問介護(コミュニティ・サービス)、それにヘルプラインを手掛けている。ヘルプラインとは、24時間受付ける電話相談。25年前から続けており、対応するのは70人ものボランティア。スコットランド全域の事務局で働く人は600人だが、1000人ものボランティアが多くの活動で協力しているという。
同協会の最新の動きは「ホームケア部門の独立です」と言う。自宅を訪れて、買物をはじめ洗濯や食事、入浴、排せつなどの手助けを行う。投薬支援や医療相談、趣味活動など日常生活全般を支える。障害者の自宅にも行き、外出同行や学習支援も手掛ける。

こうした「ホームケア」を引き継ぎ、「カレドニア・ソーシャル・ケア」という法人を設立した。旗揚げは17年4月。代表はドレイク・オリバーさん。
「訪問先では1時間以上は必ず関わります。認知症の方には、昔の写真が並んでいるアルバムを一緒に見たりして懐かしい出来事をよくお聞きします」。利用者は現在340人。その95%は認知症の人だという。利用料は、どのような種類のサービスでも1時間18ユーロ(約2500円)。

多くの利用者に提案するのは外出し社会参加すること。「観劇やスポーツ観戦などで地域コミュニティに入っていけば、引きこもらない生活が続けられますから」
法人は「全社員が株主のオーナーシップ制です。社員が自由に経営にモノが言えますから」とオリバーさん。一人ひとりが経営も労働も担う働き方で、日本では「協同労働」と言われる。
オリバーさんは「風通しがいいため、仕事への満足度が高く離職者が少ない」と胸を張る。

 

ジャーナリスト
元日本経済新聞編集委員
浅川 澄一

1971年、慶應義塾大学経済学部卒業後に、日本経済新聞社に入社。流通企業、サービス産業、ファッションビジネスなどを担当。1987年11月に「日経トレンディ」を創刊、初代編集長。1998年から編集委員。主な著書に「あなたが始めるケア付き住宅―新制度を活用したニュー介護ビジネス」(雲母書房)、「これこそ欲しい介護サービス」(日本経済新聞社)などがある。

 

 

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