---介護施設を取り巻く法律問題の今---
本人の承諾の有無がカギ
引き出した金額も重要に
他の相続人が訴えて紛争に
被相続人(Xさんとします)の生前、Xさんと同居していた相続人(Aさんとします)が、Xさんの預金を引き出していた場合に、Xさんの死後、他の相続人が、当該引出しはXさんの承諾なく行われたとしてAさんを訴え、相続人同士の紛争に発展する事例がしばしば見られます。そこで今回は、Aさんの立場から、このような紛争にどう備えるべきか解説致します。
Xさんの預金の引出しが争われる場合、Xさんが預金引出しに承諾を与えた当時、Xさんは認知症等を患っていたため意思能力がなく、したがって、Aさんによる預金引出しは有効な承諾に基づかないと判断されるケースが多くあります。他方で、認知症を患ったXさんの医療費に、Xさん自身の預金を充てざるを得ない状況もままあるところです。
このような場合には、Xさんの親族が、家庭裁判所に後見開始を申し立てた上(民法7条)、選任
された後見人の財産管理に従って、Xさんの預金で医療費を賄うことが考えられます。
次に、Xさんが預金引出しに承諾を与えた当時、Xさんの意思能力がなかったとまではいえないものの、預金引出しに対する包括的な承諾を与えたと認められるかは微妙なケースについてご説明します。
このような場合は、従前Xさんが支出していた程度の生活費やXさんの医療費等に充てる程度の額の引出しについては、個々の引出し全てについてXさんの承諾や使途を証明できなくとも、Xさんの包括的な承諾に基づく引出しと認められる場合が多いですが、それを超えて高額の引出しが継続している場合は、当該超過した金額につき、具体的にXさんの承諾があったことを立証できなければ、Aさんは、当該金額をXさんの相続人に返還する義務を負いかねません。そのため、とりわけまとまった金額をXさんの口座から引き出して用いる場合には、領収書や振込記録を残しておき、当該支出に合理的な理由があるという根拠を残すことが重要です。
なお、Xさんの死後、Xさんの口座から引き出した金銭を、Xさんの葬儀費用に充てる事例が多々見られますが、裁判実務上は、葬儀費用は喪主が負担すべきであるとの理解が一般的ですので、注意が必要です。
弁護士法人ALG&Associates
執行役員・弁護士 家永 勲氏
【プロフィール】
不動産、企業法務関連の法律業務、財産管理、相続をはじめとする介護事業、高齢者関連法務が得意分野。
介護業界、不動産業界でのトラブル対応とその予防策についてセミナーや執筆も多数。
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