---便利の扉「アクセシブルデザイン」て知っている?---
海外からの観光客の多くに感心される温水洗浄便座、実は約80年前、スイスとアメリカで、手が不自由な痔の患者用として開発されたこと、ご存じだろうか?
1964年、日本の大手衛生陶器メーカー2社がそれぞれ輸入、3年後にうち一社の国産品の販売がはじまった。しかし定着するまでには多くの壁が立ちはだかった。下水道の整備率が低いことや和式が主流であったためである。その後法整備が進み徐々に下水が整備されるとともに、トイレも洋式に変わっていった。
82年、「おしりだって洗ってほしい」という衝撃的なテレビCMがゴールデンタイムに流れ、日本国民の多くはその存在を知ることになった。CM は注目をあびたが、使ってみないことには判断がつかない。水道工事屋さん宅に設置し、経験による説明を個々の家庭で行うという地道な努力も行った。温水洗浄便座が設置してある公共施設のマップを作り使った人の体験を小冊子にまとめるなどの広報活動も行われた。体験集では、「覗きこんだら顔に水があたった」などの失敗談とともに、痔の患者さんから「この商品を待っていた!」、「便秘が解消された」、「手が不自由でいつも誰かに行ってもらっていたことが自分でできて涙が出るほど嬉しかった」など感動の声が寄せられた。
安全性、使い勝手も年々進化を遂げている温水洗浄便座は、現在8割以上の家庭に設置されるに至っている。そして2020年の東京オリンピック・パラリンピックで、多くの国から訪れる人に温水洗浄便座があるトイレを知らせるための案内用図記号が日本工業規格(JIS)に加わった。さらに機器操作部の図による表示も「おしり洗浄」、「ビデ洗浄」など国際的に統一されるなど、より多くの人への利便性が進化しながら広がっている。
星川 安之(ほしかわ やすゆき)
公益財団法人共用品推進機構 専務理事
年齢の高低、障害の有無に関わらず、より多くの人が使える製品・サービスを、「共用品・共用サービス」と名付け、その普及活動を、玩具からはじめ、多くの業界並びに海外にも普及活動を行っている。著書に「共用品という思想」岩波書店 後藤芳一・星川安之共著他多数
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