震災に備えよ BCP
LPP Life Preservation Plan 災害時における生命・生活の保護計画
今月、九州地方では猛烈な豪雨による被害が発生した。自然災害による脅威はい
つ自らの身に降りかかってくるかわからない。特に要介護高齢者が住む高齢者施設
において実行可能性を考慮した「BCP(事業継続計画)」策定は喫緊の課題だ。
今回は、80施設・5000室超の高齢者施設を運営するニチイケアパレス(東京都
千代田区)の秋山幸男専務に、BCPへの取り組みについて話を聞いた。
9割超の施設に井戸設置
--ニチイケアパレスでは、「Life Preservation Plan(LPP)」という独自のBCPを策定しています。策定に至った経緯を教えてください
秋山 やはり大きかったのは東日本大震災(3・11)です。当社でも断水や計画停電などもありましたので、安心・安全の確保について再度見直すプロジェクトをスタートさせました。2013年4月に最初のマニュアルが完成しました。
-- L P P では「自助」「協助」「互助」に分けて計画を策定しています。それぞれの特徴などを教えてください
秋山 自助については電気、水、食糧、生活用品、建物対策などになります。
食糧であれば非常食と保存食で10日分、おむつは14日分を用意しています。手押し汲み上げ式の井戸は土地・建物の関係で断念した5施設を除き、すべての施設に設けています。年に2回の水質検査を実施していますが、8割は飲料水として使用可能な水質となっています。3・11の断水ではトイレが流せないといった事態もありましたが、井戸があることでそうしたことも回避できます。
--井戸は以前よりあったのでしょうか
秋山 すべて3・11以降です。既設の施設は新たに井戸を掘り、新設の場合はかならず設けるようにしています。一つの井戸を掘るのにそれなりの費用はかかりますが、入居者の安心・安全を考えれば必要な費用です。
--協助・互助について教えてください
秋山 協助については施設のある自治体との防災協定のほか、厨房事業者、設備管理事業者、建設会社、医療機関、薬局、クリーニング事業者と物品の提供や人的支援において相互に協力できるよう「災害対応協定書」を締結しています。また、ニチイグループの総合力を活かし、人的支援、非常事態が長引いた際には10日目以降の食糧の調達などで支援します。
--自治体だけでなく、協力事業者とも話し合いがなされているのですね
秋山 例えば、有事の停電の際に怪我人が出た場合、どうしてもエレベーターが必要なケースもあるでしょう。その時はスプリンクラーの電源をエレベーターに切り替えられるようにしました。これは建設会社や設備管理事業者のノウハウ、協力があってこそです。有事の際はガソリンの調達が難しいという場合もありますので、当社では施設に1台の電気自動車を用意しています。最近はより走行距離が長い車種に変更しました。
互助で言えば、当社は東京を中心にドミナント展開をしていますので、近隣施設との協力により介護スタッフの配置を調節するといった相互支援体制を整えています。本社と基幹施設には衛星電話も設置しており、携帯電話など既存の通信インフラが途絶えた場合でも適切な情報伝達が可能です。
--計画を策定してもスタッフ一人ひとりに周知させることは難しそうですが
秋山 マニュアルは全職員で共有しています。また、毎月のリスクマネジメント委員会においても話し合われ、確認や改善を継続しています。
--訓練の実施はどのくらいの頻度で行いますか
秋山 春・秋に年に2回の訓練を実施しています。釡戸を使って炊き出しをしたり、井戸水を汲み上げて運んだりと本番さながらに行います。本社も含めて一斉に全施設の訓練を実施しています。
--ここまで徹底的な対策をするとかかる費用も大きいのではないでしょうか
秋山 これまでに全施設のBCP対策には10億円を超える資金を投下しています。それだけ安心・安全には真剣に取り組んでいます。
--BCPへの取り組みが入居の決め手となることはあるのでしょうか
秋山 入居の決め手になるかと言えばそうではありませんが、「しっかりとした対策をしている施設」であるという安心感は持たれることが多いです。また、学生など新卒者はLPPを知って当社に興味を示してもらうケースも少なくありません。
--BCPで特に重要な点はどこだと思いますか
秋山 「特にこれが重要」ということではなく、「どれが欠けてもダメ」ということです。あらゆるリスクを想定して一つひとつ入念に、すべてを準備することが大切なのではないかと考えています。
■ニチイケアパレスの「LPP」自助の取組み
電力
太陽光発電機と移動式蓄電池を装備し、医療器具等
の電源を確保。
水
手押しくみ上げ井戸、浄水器を装備し、断水時の飲
料水、生活用水を確保。
食糧
3日分の非常食に加え、7日分以上の保存食材を厨房
で保管することで、10日間の食事提供に対応。
生活用品
オムツや清潔用品を14日分用意。
スタッフの保護
帰宅困難となったスタッフ宿泊用に寝具を保管。
電気自動車
通院等に備え、電気自動車を配置。
調理機器
ガスや電気がなくても炊事が出来るように、釜戸、お
釜、鍋、炭、カセットコンロを装備。
建物対策
窓ガラスが割れても飛散しないように対策を行う。
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