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認知症の人が住み慣れた地域で暮らす権利

 

自民党と公明党は6月20日、議員立法で成立を目指す「認知症基本法案」を共同で衆議院に提出した。

 

今回の認知症基本法案のポイントは以下である。①政府による基本政策策定の義務(都道府県、市区町村は努力義務)、②首相が本部長を務める推進本部の設置、③認知症に関する教育の推進、④バリアフリー化の推進、⑤認知症の人の社会参加の機会確保、⑥予防の推進、⑦専門的な医療機関の整備、⑧相談体制の整備、⑨9月21日を認知症の日とする。

 

さて、これまでの我が国の認知症施策を振り返ってみよう。認知症への取り組みが始まるのは今から34年前の1985年、厚生省が痴呆性老人対策本部を設置して以来である。そして2010年、厚生労働省に認知症施策検討プロジェクトチームが組織され、このチームの検討をもとに「認知症施策推進5ヵ年計画(オレンジプラン)」が策定された。その後オレンジプランによる取り組みが実施される中、14年11月、「認知症サミット日本後継イベント」が東京で開催され、このイベントの開会式で、安倍首相が「新たな(認知症)戦略は、厚生労働省だけでなく、政府一丸となって生活全体を支えるよう取り組む」と宣言した。こうして出来上がったのが15年からスタートした「認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)」である。そして新オレンジプランの期中の18年12月に政府は認知症施策推進関係閣僚会議を立ち上げ、今年6月に現状の新オレンジプランを大改革した新たな「認知症施策大綱」(以下、大綱)を取りまとめた。大綱では認知症の人との「共生」と認知症の「予防」を2本柱に据えている。

 

今回の認知症基本法は成立すれば、こうした政府の一連の認知症施策の上位に位置する法律で、今回の「大綱」も、この基本法の下に位置付けられることになる。認知症基本法の国会での議論は秋の通常国会で始まるが、予想される論点として、認知症の人の基本的人権や権利擁護の視点などが挙げられる。

 

多くの先進国では認知症の人は住み慣れた地域で支えるのが基本となっていて、精神科病院への入院を制限している国が多い。しかし日本においては人口当たりの精神病床数が多いこともあって、いまや精神病床に入院している認知症の人が増加の一途をたどっている。認知症基本法の中で、ぜひとも認知症の人が住み慣れた地域の中で暮らす事を当事者の権利として認めていきたいものだ。

 

 

武藤正樹氏 国際医療福祉大学大学院教授

1974年新潟大学医学部卒業、国立横浜病院にて外科医師として勤務。同病院在籍中86~88年までニューヨーク州立大学家庭医療学科に留学。94年国立医療・病院管理研究所医療政策部長。95年国立長野病院副院長。2006年より国際医療福祉大学三田病院副院長・国際医療福祉大学大学院教授、国際医療福祉総合研究所長。政府委員等 医療計画見直し等検討会座長(厚労省)、介護サービス質の評価のあり方に係わる検討委員会委員長(厚労省)、「どこでもMY病院」レセプト活用分科会座長(内閣府)、中医協調査専門組織・入院医療等の調査・評価分科会座長

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