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---具体例で学ぶ介護施設の事故防止策---

 

「聞き取り調査」は必要か?

不審な傷やアザを発見して、「職員による虐待かもしれない」と家族が訴えてきました。施設では職員に聞き取り調査をしています。しかし、「私がやりました」と申し出る職員はいませんから、調査しても真相は分かりません。「調査しましたが分かりませんでした」と回答すると、家族は「そんなことでは納得できない」と不満を漏らします。

虐待の嫌疑は晴れることなくくすぶり、その後に原因不明の骨折でも起きれば、「ほら見ろ、やはり虐待だ」と市へ通報されます。このような虐待の嫌疑には、どのように対応したら良いのでしょうか?

 

 

■聞き取り調査に意味はない
虐待の嫌疑の訴えがあった時、なぜ施設では職員に聞き取り調査をするのでしょうか?聞き取り調査をしても何一つ明らかにならないことは初めから分かっています。家族もそんなことは承知していますから、不満を持つのです。
では、どのような調査をして説明すれば、家族は納得してくれるのでしょうか?

 

まず、施設は虐待の嫌疑をかけられているのは職員個人ではなく施設であることを、自覚すべきなのです。業務中に職員が利用者に対して加害行為をしてケガを負わせたという施設の責任を問われているのですから、職員に事情聴取をするなどという傍観者的な対応で済むわけがないのです。虐待の嫌疑をかけられているのは施設であり、施設が当事者としてこの嫌疑に対して責任ある対応をしなければならないのです。

 

 

■施設として虐待の有無を判断
施設が虐待の嫌疑に対する当事者として対応するためには、施設は独自に調査をして虐待の有無について判断を示さなければならないのです。つまり、「私共管理者が直接調査を行った結果、職員による虐待行為はないと判断しました」と説明しなくてはなりません。
では、どのような調査を行いどのように虐待の判断をすれば良いのでしょうか?

 

例えば、自発動作が少ない、ほとんど寝たきりである利用者の、額と目の周りに打撲痕が見つかったという実際の事例で考えてみましょう。まず、事故と虐待の両面から事実に照らして想定される全てのケースについて、検証して報告します。具体的には次のようなケースを想定します。

①故意に傷つける目的で暴行し受傷させた(虐待)
②傷つける目的はなく乱暴な介助によって受傷させた(虐待)
③危険な介助方法と知っていて受傷させた
④危険な方法と知らずに危険な介助方法を行い受傷させた
⑤介助中に不可抗力で受傷させ気づいたが申し出なかった
⑥介助中に不可抗力で受傷させたが、職員は気づかなかった

 

 

■虐待の可能性についての検証
虐待の可能性については、過去の事例に照らして虐待の可能性が高いか低いかを判断します。多くの虐待事例では、見えにくい部分の皮膚を傷つけるケースが最も多く、顔面を受傷させるのは認知症利用者の対応で「カッ」となって殴るようなケースですから、本事例は虐待より事故の可能性が高いと判断します。

 

もし、介助中の事故の可能性が極めて低く、過去の虐待行為の類型に合致するのであれば、証拠が一切無くても虐待行為の可能性が高いと結論をせざるを得ません。たくさんの利用者の足の裏に、不自然な切り傷が発見された場合などがこのケースに該当します。

 

本事例の場合、パッド交換の介助を再現したところ、側臥位にしてお尻側のパッドを交換している場面で利用者の顔がベッド柵にぶつかることが分かりました。職員はパッド交換中手前の利用者の頭の位置が全く目に入っていませんでした。
施設長にベッドに寝てもらい、介護主任が介助して様々な介助場面を検証し、これらをビデオで撮影したデータを添えて、調査報告書を提出しました。家族は虐待ではないことを納得し、「今後は気をつけて介助して下さい」と言ってくれました。

 

 

安全な介護 山田滋代表
早稲田大学法学部卒業と同時に現あいおいニッセイ同和損害保険株式会社入社。2000年4月より介護・福祉施設の経営企画・リスクマネジメント企画立案に携わる。2006年7月より現株式会社インターリスク総研、2013年4月よりあいおいニッセイ同和損保、同年5月退社。「現場主義・実践本意」山田滋の安全な介護セミナー「事例から学ぶ管理者の事故対応」「事例から学ぶ原因分析と再発防止策」などセミナー講師承ります。詳しくはホームページanzen-kaigo.comで。

この記事は有料会員記事です。
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