---第1回 人生の最終段階で繰返す入退院---
高齢化に最適化した医療とは
要介護高齢者や認知症の増加、就労人口の減少、経済成長の鈍化と社会保障財源の不足、医療介護人材の不足、死亡者数の増加と看取り難民…さまざまな課題が山積し、私たちの未来の見通しは不確実さと曖昧さを増している。しかし、その中においても確実なものが1つだけある。それは疾病構造の変化と、それに伴う医療ニーズの変化だ。
日本の医療は高度急性期病院を中心に展開されてきた。それは、これまでの医療ニーズの中心が「治療」にあったからだ。健康状態に異常が生じたら、病院を受診する。医師はガイドラインに従い、診断と治療を行う。病気がスムーズに治療でき、病気さえ治療できれば問題が解決できていたのは、患者層が「若かった」からだ。
しかし、高齢化に伴い患者の多くは高齢者となっている。病気の多くは慢性的に経過し、治癒しない。入院治療は時に身体機能・認知機能を低下させる。患者を救うはずの高度急性期病院で、生活者としての能力、人生の所有権を失う高齢者が少なくない。
人は加齢に伴い心身の機能が低下する。そして、治らない病気や障害とともに人生の最終段階を生き、人生の最終段階を迎える。特に脆弱な高齢者にとって大切なことは、何かが起こったら病院へ、ではなく、何かが起こらないように予防すること、そして何かが起こったとしても、最期まで本人が納得できる生活が継続できる環境を整えることにあるのではないだろうか。
救急搬送される高齢者は年々増加している。しかし、増加しているのは重症患者ではなく、本来は受診や入院の必要のない軽症や中等症の患者の搬送だ。
高齢者は入院依存度も高くなる。国民医療費の50%を超える70歳以上の高齢者医療費は、実に80%が入院医療費で占められている。これは単に高齢者が病気になりやすい、というだけではない。高齢者は、入院によって心身の機能が低下し、再入院のリスクの高い状態で退院する。そして人生の最終段階で入退院を繰り返しながら、8割が最期を病院で迎えている。約7割が人生の最期を自宅で、と希望しているにも拘わらず、だ。
私たちは、この医療ニーズの変化をまだまだキャッチアップできていない。
しかし、高齢化に最適化した医療の仕組みを作ることは、不確実で曖昧な時代を進んでいくための、重要な最初のステップであると思う。
そんな課題意識の中で、私が在宅医療で個人開業をしたのは2006年の8月だった。在宅総合診療、確実な24時間対応、そして本人の優先順位を大切にする医療を標榜し、東京・千代田区で在宅医療を始めた。「患者のニーズが最優先」という価値観に共鳴してくれる仲間が集まり、現在、首都圏に12の診療拠点を展開、76名の医師、5名の歯科医師、約100名のコメディカルとともに4500人の在宅患者さんの療養支援を担当させていただいている。
佐々木淳 氏
医療法人社団悠翔会(東京都港区) 理事長、診療部長
1998年、筑波大学医学専門学群卒業。
三井記念病院に内科医として勤務。退職後の2006年8月、MRCビルクリニックを開設した。2008年に「悠翔会」に名称を変更し、現在に至る。
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