集中連載 フィンランド リトアニア視察レポート
第3回 「ラヒホイタヤ」=医療福祉資格の統合とEU間の就労事情
10の資格統合で人材不足解消
フィンランドの教育はユニークでレベルが高いことでつとに有名である。幼児の保育と教育の一体化や、学校では「子供に教える」から「子供の主体性を尊重しサポートする」教育に転換、幼少時から自分で考え、自分で物事を解決する資質を身につける。
さらに若者世代の職業教育や大学教育も学費無料、ICT先進国のデジタルシステムで教育界を充実させ、OECDのPISAの世界ランキングもトップクラスを維持している。
そんなフィンランド独自のケア資格「ラヒホイタヤ」養成の現状をヴァンター市立のバリア職業教育学校で視察した。
ラヒホイタヤとは?
ラヒホイタヤは10のサービス職を統合した資格制度で、1990年代から進められた高齢化対応の保健医療福祉改革の中で93年に誕生した。「介護人材のマンパワー総量は変えずに、一人一人の能力を上げ、多職種横断の人材を育成、合理的なマンパワー配置」をねらいに制度改革された。職業間の流動性はメリットが多く、人材不足解消、転職防止をねらったという。
ラヒホイタヤとはフィンランド語の「Lähihoito日常のケア」に語源を持つ。保健医療資格の7分野=准看護師・児童保育士・歯科助手・リハ助手・精神看護助手・救急救命士&運転手・ぺディケア士と、社会福祉資格3分野=知的障害福祉士・ホームヘルパー・保育士を統合した資格である。3年教育(共通基礎科目2年/専門分野1年)で、卒業時にライセンスが付与される(ラヒホイタヤは「准看護師」と訳されることもあるが、看護師と介護士の統合だけではないので正確ではない)。
バリアVaria
職業教育学校を視察
バリア職業教育学校は63年に設立されたヴァンター市立職業教育学校で、市内5ヵ所の校舎に学生3800人が学んでいる。美容・建築・ITなど20以上あるコースの一つがラヒホイタヤ養成で学生数600人。義務教育修了の中卒と社会人入学が半々で、学年の約3分の1を移民が占めるのでフィンランド語など語学の時間もある。
介護実習室を見学したが多国籍の学生であふれていた。興味深いのは、EU内の他国に4〜10週間の交流実習にも行くことで、国際クライテリアをクリアするためかとも思われた。
ラヒホイタヤはヘルシンキ首都園だけで4000人を養成している。就職先は高齢者施設や在宅ケアが半数を占めるが、保育園、病院、精神科や薬物治療領域、障害施設など多様である。平均給料は約2000〜2200ユーロ(看護師が2600ユーロ)で労働条件は良く、現場の人材不足はない。
教員のAnuさんは、「若者全員に資格教育をして、社会からドロップアウトさせないことが重要です。また人間性の教育、チームの一員として業務ができ、またリーダシップを取れるように」と教育方針を説明してくれた。
変化するEU
各国の介護資格
EUではケア等専門職人材の養成に資格枠組みを提示しており、各国も制度改正などしながら域内での労働市場の流動化にも対応している。
オランダでも97年から新しい資格構成で看護介護職のライセンスや待遇を「レベル1〜5」の5段階に統一し、レベル1から3は介護職、4から5を看護師として教育を充実した。
また、ドイツでは老人介護士と看護師資格を一本化する「看護介護職改革法」が2017年に成立、20年から新しい「看護介護師」となる。EU内でこれまでは補助者扱いだった老人介護士が看護職として就労できる。
わが国でも介護人材の養成に資格統合などの議論がはじまりつつあるが、今後の施設や在宅ケアのニーズに対応して、看護・介護・保育・リハなどの近接領域の知識と技術を共有できるケア職養成の検討は急がれるのではないだろうか。
山崎摩耶氏 元衆議院議員・前旭川大学教授
訪問看護のパイオニアとして訪問看護制度創設に尽力。介護保険は創設時より社会保障審議会・介護保険部会、介護給付費分科会、ケアマネ養成、身体拘束ゼロ作戦会議の座長等でかかわる。日本看協会常任理事、日本訪問看護振興財団常務理事、全国訪問看護事業協会常務理事を歴任。2009年衆議院総選挙に北海道比例で初当選。2017年総選挙では惜敗。主な著書は「患者とともに創る退院調整ガイドブック」中央法規出版社、「最新訪問看護研修テキスト」日本看護協会出版会(編著)など著書、論文多数。
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