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---【連載第156回】具体例で学ぶ介護施設の事故防止策 ---

 

 知的障害者施設で2週続けて同じ利用者に誤薬する事故が起こりました。この施設では、薬ボックスから取り出す時に他の職員とダブルチェックをするルールでしたが、2回ともこのダブルチェックが機能しなかったのです。施設管理者は「不注意もここまでいくと言語道断、職員の個人的な責任だ。こんなボーっとしていては困る、打つ手がない」と意味不明のボヤキしか出ません。本当に打つ手はないのでしょうか?

 

■「ダブルチェック」は効果がない?
ミスを発見するチェックの仕組みとして、「職員2人によるダブルチェック」という方法が頻繁に使われますが、本事例のように機能していないケースが多いようです。そもそもダブルチェックとは、同じ場面で2人がチェックする方法と、異なる2つの場面でチェックする方法の2種類があります。同じ場面で2人がチェックすると、お互いに相手にもたれ合って却って逆効果になることがありますから、場面を変えて1人でチェックするほうが効果的かもしれません。

 

また、本事例の場合はダブルチェックを行う環境にも問題がありました。利用者が一斉に食事が終わり服薬介助に入る場面ですから、職員はみなバタバタしていて落ち着いてチェックができるような環境ではなかったのです。高齢者と異なり知的障害の利用者は食事が終わってじっとしている訳ではありません。中には逃げていく利用者を追いかけて服薬をさせている職員もいます。こんな状態で、「ダブルチェックをお願いします」と言われても迷惑な話です。

 

 

■なぜ2度も間違えたのか?
ご存知のように誤薬の防止対策は、ミスが起きないようにする対策と、ミスが起きた時ミスを発見するチェックの対策を別々に講じなければなりません。服薬直前の本人確認と薬の確認は、ミスを発見するチェック対策ですが、その手前でミスが起きないようにする対策も講じなければなりません。なぜなら、人は正しいと思い込んでいると、チェック機能が疎かになるからです。

 

そこで、薬ボックスから薬を取り出す時にどのように間違えたのか、原因を分析することにしました。同じ場所で同じ薬袋を薬ボックスから取り出してもらい、ミスが発生した現場を再現して現場検証をしたのです。まず、利用者名が酷似していることが挙げられます。間違えた氏名の苗字は「高橋」と「高榛」ですから、遠目には同じに見えてしまいます。急いでいる時は、姓名の姓のほうだけを見て名のほうはおざなりになります。人のミスの原因分析は、ミスの場面を再現して少しでもミスにつながる原因を様々な側面から洗い出していくのです。

 

 

■薬の取り違えの原因は3つ
現場検証から分かった、薬の取り出しミスの原因は3つありました。
①薬ボックスのタブの氏名が手書きで読みにくい。②薬袋の氏名の印字が小さい。③薬ボックスが置いてある場所が食堂の隅で暗い。

 

これらの3つの中で、特に大きな原因は2つの目の薬袋の印字が小さくて見にくいことでした。日付と服薬タイミング(朝・昼・晩・眠前)の表記は大きな印字なのに、氏名の印字がやけに小さいのです。9ポイントくらいの明朝体なので、目が悪くなくても読み間違えてしまいます。すぐに調剤薬局に電話を入れて、印字が大きくできないかどうか聞いてみました。すると「いいですよ、何ポイントくらいがいいですか?」と言うので、「16ポイントでゴシックにして下さい」とお願いしました。

 

印字が小さかった理由は後で判明しました。薬の一包化は在宅の高齢者の服薬管理のために始まったサービスであり、氏名を分かりやすく表示する必要がなかったのです。しかし、多くの利用者の服薬管理をする施設では、日付や服薬タイミングより氏名が見やすくなければならなかったのです。その後「服薬タイミングで印字の色を変えて欲しい」とお願いしたら、気持ちよく引き受けてくれました。

 

安全な介護 代表 山田滋氏
早稲田大学法学部卒業と同時に現あいおいニッセイ同和損害保険株式会社入社。2000年4月より介護・福祉施設の経営企画・リスクマネジメント企画立案に携わる。2006年7月より現株式会社インターリスク総研、2013年4月よりあいおいニッセイ同和損保、同年5月退社。「現場主義・実践本意」山田滋の安全な介護セミナー「事例から学ぶ管理者の事故対応」「事例から学ぶ原因分析と再発防止策」などセミナー講師承ります。詳しくはホームページanzen-kaigo.comで。

この記事は有料会員記事です。
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