ポスター問題で期せずして注目を集めるACP(愛称:人生会議)。「いいみとり」の語呂合わせで厚生労働省が「人生会議の日」と決めた11月30日、関連シンポジウムが都内で相次いで開かれた。本人が望む人生の最終段階の医療・ケアを、家族や医療・介護従事者も交えてどう話し合えばよいか---各会場には多数の聴講者が集まり、関心の高さが窺えた。
公益社団法人東京都医師会は「都民にとっての『人生会議をどう考えるか〜本人の意思決定のために〜』」を開催。医療や介護の関係者、行政関係者に加えて一般の聴講者も多く、会場には150名が詰めかけた。
基調講演で東京都在宅療養推進会議の新田國夫会長は、厚労省によるガイドラインの解説などを通じてACPの本質を説明。「本人の意思は変化しうるもの。医療ケアの本質についての話し合いは繰り返すことが重要」と述べ、認知症などで本人が自らの意思を伝えられない状態に備えて家族等の「本人の意思を推定しうる者」を含んでおく必要性も指摘した。病院だけでなく介護施設や在宅の現場も考えていく重要性を強調した。
かかりつけ医の立場で登壇した東京都医師会の西田伸一理事は「意思決定支援を普及するキーワードとして『ACP』は有効だが、ニーズや方法論は多様性があり標準化は難しい」と指摘。当事者に心的ダメージを与える恐れなど「マイナス面」への配慮も求めた。
シンポジウムには、訪問看護師の立場から東久留米白十字訪問看護ステーションの中島朋子所長、ケアマネジャーの立場から東京都介護支援専門員研究協議会の大木一郎理事、救急医の立場から帝京大学医学部附属病院の池田弘人准教授らが登壇。
パネルディスカッションの際、患者・家族の立場で参加した池上清子氏が「家族には覚悟が必要。覚悟をどこまでできるか。自宅で看取ると決めていても迷う気持ちはよく分かる。覚悟を決めるためにはACPのような色々な場面で色々なことを話すことができればよい」と述べると、参加者の多くがその言葉に頷いた。
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医療に意識改革 日本尊厳死協会
一般財団法人日本尊 厳死協会(東京都文京区)は「第8回日本リビングウイル研究会」を開催。「物語としての人生会議(ACP)リビングウイルを入口に」を題目に作家の柳田邦男氏、三浦久幸医師、長尾和宏医師、倫理学者の板井孝壱郎宮崎大学教授が登壇した。
三浦久幸医師は「医療者は病気の治療にとらわれすぎており、患者や家族の意思に寄り添えていない」と指摘。救命措置の中止を望事前指示書を記していたことを知らされておらず、看取りの段階で提示され本人の意向に添えなかったケースを報告した。
長尾和宏医師は、患者との信頼を築くためには、医療者自身がリビングウイルを示すべきだと主張。「対等な関係で、患者の人生の物語を傾聴する姿勢がACPにおける医療者の重要な役目だ」と話す一方、「死」を語ることが忌避されがちな現状を指摘した。
死に臨む本人が準備すべきこととして、柳田氏は「看取りという経験を通じて残される人々に何を残すかを考えること」、板井教授は「書面でなくても本人の意思を推測できる手がかりを残すこと」をポイントとしてそれぞれ挙げた。
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