【超高齢社会と地方自治体】
特別インタビュー 豊島区 高野之夫区長
「都心」「若者が多い」「グローバル」といったイメージが強い東京都豊島区。だが、「75歳以上の独居高齢者」の割合が全国市区で1位、65歳以上の割合も同2位という特徴的な高齢化問題も抱えている。東京都が提案した混合介護の特区に一早く手を挙げ、さらにその先を見据えた「総合的な高齢社会対策」を掲げている。目指すのは、日本一の「高齢者にやさしいまち」----高野之夫・豊島区長に施策にかける想いを語ってもらった。
オールとしまで知恵
総合的な高齢化対策
---独居高齢者の多さは意外ですが、区としての分析は。
高野区長:「住みたいまち」「住みやすいまち」であることが一因だとみています。生活利便度に関する調査では、診療所の密度、コンビニエンスストアやドラッグストアの密度などが全国の自治体に比べて非常に高く、賃貸住宅が多いのも特徴です。民間調査の「共働き子育てしやすいまち」の全国ランキングで第1位に豊島区は選ばれていますが、こうした「住みやすさ」は、高齢で一人住まいの人にも大きな魅力です。
---「選択的介護モデル事業」を導入した背景は。
高野区長:介護保険制度がスタートして20年になりますが、「高齢者の生活を支える」という視点に立てば、保険制度だけでは十分と言いがたいのが実状です。まして、独居の方などは配慮がさらに困難です。
保険者として区市町村には、介護予防・日常生活支援総合事業を負う責任がありますが、最近は担い手の確保も難しくなっています。そうした状況も踏まえ、「選択的介護モデル」いわゆる混合介護の仕組みを検討しました。国家戦略特区の仕組みを活用してサービス提供のルールを明確化し、2018年8月からモデル事業を本格的に進めています。
---全国初の取り組みで先例のない中のスタートでした。
高野区長: 介護保険サービスと保険外サービスの柔軟な組み合わせを可能にすることで、サービス提供の効率化や高齢者の生活を支える新たな仕組みや価値の創出を目指す---当初から目標や理念は明確でしたが、利用者保護の観点から、サービス提供ルールなどを独自に設ける必要がありました。その上、国との調整なども思うようにいかず、現場も苦労してきました。
---国レベルでも、「地域共生社会」を始めとする新しい観点が重視されています。
高野区長:国に先んじて、豊島区としては19年度から、「総合的な高齢社会対策」に着手しました。まず昨年4月に専任組織として「総合高齢社会対策推進室」を発足させ、全区を挙げた分野横断の総合的な対策に取り組んでいます。
目標は「日本一の『高齢者にやさしいまち』」。具体的には、19年5月に全国初となる「フレイル対策センター」を開設、10月には高齢者の服薬情報提供事業を導入しました。
また、姉妹都市である埼玉県秩父市と連携して、秩父市にあるサービス付き高齢者向け住宅を活用した「二地域居住」にも取り組み始めました。これは、シニア層の区民を対象に生活拠点を2ヵ所持ってもらい、どちらにいても同じようなサービスを受けられるようにしようという事業で反響を得ています。
区民の皆さんとの連携では、昨年7月に第1回目の「総合高齢社会対策推進協議会」を開催し、113名にご参加いただきました。
この協議会の中で、「社会的孤立ゼロ」という目標を掲げました。要として「民生委員・児童委員」の活動に期待していますが、残念ながら多数の欠員が生じているのが実状で、19年度末までに「民生委員・児童委員の欠員ゼロ」を目指しています。その上で、22年度末には「75歳以上高齢者の孤立死ゼロ」を次の目標に掲げています。
---豊島区は「区民負担ゼロで区役所を建て替える」などアイデア勝負の施策が多く、興味深いです。
高野区長:区長に就任した1999年、豊島区は財政破綻寸前でした。行財政改革に尽力してきましたが、同時に「文化によるまちづくり」「福祉と文化の融合」を掲げてきました。お金をかけずとも、地域に根差した文化を大切にして知恵を出し合って福祉を実現する---そうした考え方自体が今や一つの豊島区の「文化」になり、強みになりました。
選択的介護も総合高齢社会対策も、この強みを最大限に活かしつつ、区に関わるすべての皆さんと一体となった「オールとしま」で取り組んでいきたいと思います。
高野 之夫 たかの ゆきお
1937年、豊島区生まれ。立教大学経済学部卒業。豊島区議会議員、東京都議会議員を経て1999年に豊島区長就任。
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