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---連載 点検介護保険---

「引きこもり」から脱却へ

人手不足が深刻化している。だが足元をよく見ると、「雇用待機者」がいる。働きたくても、「働きづらい」「働くのが難しい」人たちである。「引きこもり」と総称される。それぞれ固有の原因で、社会とのつながりがうまくいかない。そこへ、支援の手がきちんと及ぶと、介護の現場に参画できる。
社会福祉法人の地域貢献が強く求められているなか、「引きこもりから就労への道」は格好の活動である。「ユニバーサル就労」と命名した取り組みが注目される。

 

 

千葉県佐倉市にある社会福祉法人「生活クラブ風の村」(池田徹理事長)のショートステイサービス。Aさん(42)が夕食時に配膳を始める。直前まで利用者居室の掃除や洗濯物を取り込んでいた。午前中は、同じ建物内の訪問介護事業所でヘルパーの訪問予定表をパソコンで打ち出す。

 

 

最低賃金など労働法規の基準を満たす就業だが、4年前までは事務や掃除などの軽作業による非雇用型の有償ボランティア活動だった。今でも利用者との会話がうまくいかないため、身体介護はできない。

 

 

Aさんは、大学でゼミなどの共同研究についていけなくなり中退。両親の家で10年ほど引きこもり状態だった。心配した母親が同法人を訪ねて相談し、Aさんは8年前から同法人で「ユニバーサル就労」に入っている。ユニバーサルとは「普遍的、すべての人々の」という意味。「誰でも」が働けるような仕組みだ。

 

 

ユニバーサル就労の考え方で特徴的なのは、業務の切り出しである。例えば、介護職員Cさんの業務内容を分解して、そのうちDさんの得意な掃除や食器洗いなどを集め、「ユニバーサル就労」として別のラインを作る。そうすると、Cさんは入浴やトイレ介助など高度な身体介護の利用者を増やしたり、新たな相談業務も担える。

 

 

いじめ、不登校から引きこもりになる人が増えている。内閣府の調査では2018年に、40~64歳で引きこもり状態にある人は61万3000人に達し、15~39歳の若年層を上回っている。障害者手帳があれば福祉的就労である就労継続支援A型や同B型などの作業所へのレールが敷かれている。だが、引きこもる人向けの就労制度はない。

 

 

そこで、障害者向けの「福祉的就労」と企業の「一般就労」の狭間の就労形態を「ユニバーサル就労」と位置付けたのが「生活クラブ風の村」。生活クラブ生協を母体とし、千葉県内で多くの高齢者介護事業を運営している。

 

 

富山県魚津市の「海望福祉会」では、特別養護老人ホームやデイサービスなどの複合施設「あんどの里」での13人のほか、富山市の有料老人ホーム「花みずき」などで合わせて20人がユニバーサル就労に入っている。

 

その中の一人は、母親と同居していた50歳代の男性。うつ病で大学を中退し、就職したが引きこもりに。3年前に母親が同福祉会の特養に入居すると、食事時に面会に来るようになる。職員が「掃除でも」と呼びかけ、ユニバーサル就労につながった。今では介護資格を取り、身体介護までできるようになった。「8050問題」からの脱却である。

 

 

奈良市や生駒、大和郡山、天理市などに19の事業所を持つ「協同福祉会」は6年前にユニバーサル就労支援室を設け、各事業所への受け入れを進めている。特別養護老人ホームやデイサービス、ショートステイなどがある中学校区域に住む住民が対象。これまでに雇用型と非雇用型を合わせて23人が就労している。

 

国は2014年に生活困窮者自立支援法を施行した。自治体には相談事業を義務付け、ユニバーサル就労を「認定就労訓練事業」とし「中間的就労」とも名付けた。だが、就労の場となる認定事業所が昨年3月末時点で1679件しかない。

 

社会福祉法では全社会福祉法人が営む第2種社会福祉事業として位置づけており、本来率先して取り組むべきだが、自覚が足らないようだ。

 

浅川 澄一 氏
ジャーナリスト 元日本経済新聞編集委員

1971年、慶応義塾大学経済学部卒業後に、日本経済新聞社に入社。流通企業、サービス産業、ファッションビジネスなどを担当。1987年11月に「日経トレンディ」を創刊、初代編集長。1998年から編集委員。主な著書に「あなたが始めるケア付き住宅―新制度を活用したニュー介護ビジネス」(雲母書房)、「これこそ欲しい介護サービス」(日本経済新聞社)などがある。

 

 

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