第102回 いざという時のための任意後見契約
万が一の事態に備える
年齢を重ねてくると、「最近物忘れが激しくなってきたな」とか「判断能力が落ちてきたな」と感じる瞬間があるかもしれません。これは、法律的にいえば、事理弁識能力(自分の行為の結果を判断するに足りる精神能力)の低下を意味する場合があります。
民法上、事理弁識能力が不十分ないし喪失してしまった場合、そのレベルに応じて後見、保佐、補助という手続が定められています。しかし、後見人、保佐人、補助人を付けるには家庭裁判所に対する手続開始の申立てが不可欠であり、自分で申立てができない場合には、一定の親族や利害関係人に申し立ててもらう必要があります。さらに、裁判所が選定する後見人、保佐人、補助人というのは、弁護士といった一定の立場にある者が選ばれることもあり、必ずしも自分と面識のある人が選ばれるとも限りません。
このように、事理弁識能力の低下を自覚してなおそれを放置してしまうと、いざ身の回りの世話や財産の管理などを誰かにお願いしなければならない状況に至った場合、物事を思うように進められなくなる可能性があります。
そこで利用が考えられるのが、任意後見契約です。これは、身の回りの世話や財産の管理を行うべき立場の任意後見人がいるという点では他3つの手続と共通こそするのですが、任意後見人を自分で自由に選んでおくことができるという点で大きく異なります。
また、任意後見契約は、公正証書による締結が要件となっており、公証人によるアドバイスを受けられるので、契約内容をどう定めるかを一人で決めなくて済みます。
さらに、自分が信頼して選んだ任意後見人に後々裏切られたりするのではと心配されるかもしれませんが、任意後見人の業務は、裁判所が任意後見監督人という別の監督者を選定してからでなければ行うことができないので、自分の事理弁識能力が喪失してしまった後に自分の財産を好き勝手に浪費されるといった事態を防ぐ制度でもあります。
公正証書は、公証人の出張日当を払えば自宅や病院などで作成することも可能です。任意後見契約は、事理弁識能力が低下しなければその効力を発揮することはないものではありますが、「もしかしたら」と感じた際には、いざという時に備えて検討しておくべき法制度の一つではないかと思います。
弁護士法人ALG&Associates
執行役員・弁護士 家永 勲氏
【プロフィール】
不動産、企業法務関連の法律業務、財産管理、相続をはじめとする介護事業、高齢者関連法務が得意分野。
介護業界、不動産業界でのトラブル対応とその予防策についてセミナーや執筆も多数。
この記事が気に入ったら
フォローしよう
最新情報をお届けします
Twitterでフォローしよう
Follow @kj_shimbun