東京都 施設管理者向け高齢者権利擁護研修
1月16日に行われた東京都社会福祉保健医療研修センター(東京都文京区)で開かれた高齢者権利擁護研修には、都内有料老人ホームの施設長や現場責任者、サービス付き高齢者向け住宅の住宅管理者などが参加した。受講者の内訳は、有料老人ホームからが6割強、サ高住からが3割強だ。
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研修を実施したのは公益財団法人東京都福祉保健財団(同新宿区)人材養成部、高齢者権利擁護支援センター(同)。東京都の委託事業で、高齢者虐待についての基礎的な知識の習得と、施設の管理者として虐待防止を未然に防ぐための具体的な取り組みを考える2部構成だ。
第1部では、まず行為の類型として▽身体的虐待▽心理的虐待▽介護・世話の放棄・放任▽性的虐待▽経済的虐待――の5つに分けられることを説明。さらに、これらの行為が、悪意による虐待との自覚がなくても、客観的に高齢者の尊厳を傷つける行為は虐待に該当することを強調した。
家族に虐待理解徹底
職員・施設には難題
「虐待の芽」。
最初は些細な行為が徐々にエスカレートして深刻なケースに陥ることが多い。講師を務める同センターの髙橋智子氏は「一般に『虐待』というと暴力などがまず連想されがちですが、不適切なケア(マルトリートメント)を見過ごさず、『これぐらいいいだろう』と思ってしてしまっているかもしれない不適切なケアを虐待の芽として摘んでいくことが重要です」と受講者に語りかけた。
第2部は事例を交えながら、現場における虐待防止を考えていくワークショップ型の研修。
東京都福祉保健財団が作成した施設責任者や管理者向けの「講師用テキスト」を使いながら、職員の意識向上を図りつつ、職員の思いと裏腹に虐待行為に「加担」させられそうになるケースなど、現場でしばしば起こりうる状況を参加者同士で考えていくというものだ。
取り扱った事例の中の1つに、「施設に入居している人の家族の方が『外に出て迷惑を掛けるから、職員さんの手が足りないときは部屋のドアのカギを外からかけてください』と事務所の人に伝えて帰ってしまった。この入居者は何度か外出した後、警察に保護されて帰ってきている」といった事例を取り上げた。
講師の川崎裕彰専門相談員からケースを説明し、その上で、「①あなたは事務所の方から報告を受けた。まず何をするか、②組織としてどのように対応するか、③家族の方にどのように対応するか」を問いかける。
しばらく、受講者同士で話し合ってもらい、その後、受講者から発表を求めて話し合った内容を全体で共有し、コメントとして川崎氏が考え方を解説するという形式だ。一筋縄で答えられる問題ではない。さらに講師からは、家族の言葉の実例として「(身体的拘束を)入院中もしていたから施設でもしてください」「絶対に転倒させないで」「ちゃんと看てください」などを挙げ、家族と接する現場職員への配慮の必要性を指摘する。
「このとき『家族の方の指示だし、ケアも大変だからこれぐらいは許される』『本人の安全のためしょうがない』といった思いが生じがちですが、それが虐待の芽になります。ただ、現場の職員だけの問題にせず、施設として家族の方にきちんと説明するなどの対応が必要です」
管理者向け研修の意義について、髙橋氏は「責任者が虐待行為の具体例はもちろん、虐待防止や権利擁護に関する正しい知識を持っておくことが大切。また外部の研修に参加することはもちろんだが、自分たちの施設でどのように研修を行うかを、組織として自分たちで考えておく必要がある」と説明する。
研修テキストは財団として2015年度に作成したもので、ネガティブなものにならないように工夫し、無意識の虐待や権利擁護を日頃から考えておく「気づき」を促すことを主眼に置いている。
研修は、知識の習得だけでなく、外でほかの施設の人たちと話し合いをしたり、新しい情報をそこで交換したり、振り返りやネットワークを広げる機会にもなる。むしろ、こうした研修の場でないと、施設同士で高齢者虐待を話し合える機会はなかなか設けにくい。この構図は各施設の研修も同様で、研修時に話し合う機会を設けることで、職員1人で問題を抱え込まず、施設として共有し、虐待の芽を早期に取り除く機会になる。
今回の第2部で取り上げられたような家族からの要請や注文にも、今後は高齢者虐待を防止する観点から正面から向かい合う必要がある。
「現場の職員にきちんと虐待に関する知識や理解があっても家族側から『もう転ばせないでください』『何かあればあなたたちの責任ですからね』と言われると身動きがとれなくなります。施設としても、お客様である家族の方に面と向かって『それは虐待です』と言い切り、理解を求めるのは難しいでしょう。施設で解決が難しければ、行政の相談窓口などにすぐ相談してほしいです」と川崎氏は語る。「その点では、今後、個々の家族への啓発活動や区市町村、地域包括支援センターの職員への研修も大切な課題だと考えています」(川崎氏)
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