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---連載 点検介護保険---

大家がそっぽ、目標の15%
単身高齢者は入居を拒まれがちだ。こうした「住宅弱者」向けの居住支援の仕組み、「セーフティネット住宅」が2017年10月から始まった。

 

高齢者のほかに障害者や低所得者、一人親世帯、外国人、DV被害者、犯罪被害者などを「住宅確保要配慮者」(要配慮者)と位置付け、一般国民も入居できるが、要配慮者を拒まない賃貸住宅とした。自治体が決めれば、新婚者、LGBT、UIJターンによる転入者なども要配慮者に加えられる。

 

大家が住宅を都道府県や政令市、中核市に登録すると、住所や間取り、家賃、面積などの詳細データがウエブサイト上で公開される。
各自治体には公営住宅があるが、大都市部を中心に高倍率で入居難が続く。一方で、全国的に空き家、空き室は増加傾向。そこで「ヒトとモノの課題を同時に解決できる」との発想で国交省が立案した。

 

国は施行3年半後の2021年3月までに17万5000戸を登録目標に掲げた。ところが、3月16日時点での登録は2万6026戸。目標のわずか14.8%。1年後の目標達成は難しい。
大家のうち、たった一つの会社が1万5129戸もあり、全体の58.1%も占めている。すべてが旧雇用促進住宅でビレッジハウス・マネジメント(東京)が管理運営する。ソフトバンク系の米国投資会社が2017年に買収した約10万5000戸の一部である。

 

都道府県別では大阪府が約1万戸で2位の東京都の約2千戸を大きく引き離しているが、約半数の約4500戸はビレッジハウスだ。全国的に一般賃貸住宅の大家の関心は薄く、そっぽを向かれている。
理由は簡単。大家にメリットがないからだ。「入居後のトラブルが予想される要配慮者にわざわざ貸す気が起きない」と言われる。今でも、もし身寄りのない借家人が亡くなると、賃借権や遺留品の相続権など厄介な問題に悩まされている。

兵庫県姫路市にあるビレッジハウスのセーフティネット住宅

◇ ◇ ◇

 

国は制度の普及を図るため、家賃と改修費の補助策を組み込んだ。家賃は、市区町村が決めると、国と同額を自治体が出す。総額の上限は4万円。
東京都豊島区や名古屋市、横浜市などが始めたが、全国でわずか29自治体に過ぎない。家賃補助は長期にわたるため、「財政にゆとりがない」(東京都板橋区)と敬遠されてしまった。

 

家賃と改修費の補助は、登録住宅の中で入居者を要配慮者に限定した「専用住宅」だけに適用する。東京都墨田区は総額2万円の家賃補助制度を設けたが、区内に専用住宅がないため、利用者は出ていない。全国でも専用住宅は3435戸(3月16日時点)で、全体の13%と少ない。

 

セーフティネット住宅で、利用者を支援する目玉として導入したのが「居住支援協議会」と「居住支援法人」である。自治体が主導して不動産業者や社会福祉法人、社会福祉協議会、居住支援法人などで構成し入居相談にのるのが居住支援協議会。居住支援法人は、入居時やその後の生活支援を担う個別の法人で都道府県が指定する。
だが、協議会は2月末時点で、都道府県のほかには49市区町にしかなく、大阪や仙台、静岡など政令市にもない。支援法人も全国にわずか283で、栃木や秋田県など4県にはひとつもない。

 

 

大家の不安を払拭するには協議会や支援法人の活発な動きが欠かせないが、現状では義務付けでなく、絶対数も足りない。
登録住宅の絶対数が少ないため、協議会や支援法人の出番がないのが実態のようだ。

 

◇ ◇ ◇

 

セーフティネット住宅そのもののプランは良く出来ているものの、大家や自治体の関心を引くインパクトには欠けているため空振りとなった。「家賃補助を専用住宅に限定しないで」(墨田区)、「低所得者の収入上限を地域で変えて欲しい」(世田谷区)など自治体の要望に応える見直しが必要のようだ。

 

 

浅川 澄一 氏
ジャーナリスト 元日本経済新聞編集委員

 

 

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