新型コロナウイルスの感染拡大によって、介護現場も大きな危機に直面している。特にデイサービスなど通所介護を中心に、感染リスクを恐れた事業者が休業に踏み切る動きが拡大している。
NHKの4月20日の調査でも、休業に踏み切った事業所はデイサービスなどを中心に全国883件にものぼっている。こうした通所サービスの停止で、在宅の高齢者が心身機能を低下させるケースも出始めている。とくに独居世帯や老老世帯、認知症世帯では、病状の悪化、認知症の進行、身体機能の衰えによる転倒リスクが高まっている。
また家族介護の負担が増えることで家族関係が悪化し、虐待につながらないか懸念もされる。また通所介護の代わりとして役割が期待される訪問介護もヘルパー不足にあえいでいて限界に近い。
別の調査では、通所サービス事業を継続している事業者でも、5~6割の事業所で3月に感染不安から利用者が大きく落ち込み、大幅な減収だという。利用者の減少の幅は1割から3割におよぶ。
一方、事業者の経費は増えている。学校の一律休校に伴い自宅に子供を抱えて働けない職員の補充のため臨時職員の雇い入れや、現在の職員への休業補償に加え、マスク、ガウン、消毒液など衛生材料などの経費もかさむ。このままだと資金ショートを起こして倒産する事業所も出るだろう。
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もともと介護事業所は慢性的に人手不足業界だ。それにこれまでの国の介護報酬切り下げも影響している。2018年度の介護報酬の改定率は、2015年のマイナス2.27%改定で顕著となった介護事業所の経営難、介護職員の離職率増加といった問題を受け、全体として0.54%のプラス改定となった。
ただこのプラス改定の中でも、報酬引き下げが行われたサービスが、通所介護と訪問介護における生活援助サービスだった。通所介護では、これまでも報酬の引き下げが行われていたが、大型の通所介護の利益率が小規模通所介護に比べ高いことから引き下げの対象となった。
また訪問介護においては、過剰なサービスにつながりやすい生活援助の報酬を引き下げることがその報酬引き下げ理由だった。前回プラス改定の中で唯一マイナス改定となった通所介護と訪問介護に今回の新型コロナウイルス感染の波が襲ったといえる。
今回の新型コロナウイルス感染症流行の波は今後も1~2年の間は波状的に襲ってくる。来年、2021年は介護報酬改定の年に当たる。もう一度、新型コロナを教訓にして、介護報酬の配分の在り方を見直してはどうだろうか。
国際医療福祉大学大学院教授 武藤正樹氏
1974年新潟大学医学部卒業、国立横浜病院にて外科医師として勤務。同病院在籍中86~88年までニューヨーク州立大学家庭医療学科に留学。94年国立医療・病院管理研究所医療政策部長。95年国立長野病院副院長。2006年より国際医療福祉大学三田病院副院長・国際医療福祉大学大学院教授、国際医療福祉総合研究所長。政府委員等 医療計画見直し等検討会座長(厚労省)、介護サービス質の評価のあり方に係わる検討委員会委員長(厚労省)、「どこでもMY病院」レセプト活用分科会座長(内閣府)、中医協調査専門組織・入院医療等の調査・評価分科会座長
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