---連載 点検介護保険---
静岡市で昨年10月、社会福祉法人ライトが運営する3つの特別養護老人ホームが閉鎖され、合わせて133人の入居者が同市内外の61の特養や老人保健施設に転居させられた。前月に突然、同法人が静岡市に「資金繰りが悪化したので廃止を検討中」と伝えていた。
同市は「生命にかかわる緊急事態」として急きょ、転居先を手配。同法人の本部は岡崎市にあり、所管は愛知県。同県では「辞めた多くの職員の補充が追い付かないため、入居者数を減らし、収支の悪化を招いたようだ」と話す。
介護職員の不足は全国的に深刻な状況だ。東京都区内の特養でも、職員不足のため経営難に陥り、隣の区から別の法人が支援に入り、昨年10月に理事長など役員が総入れ替えとなった。
定員約100人の大型施設。やはり介護保険法上の職員配置基準に合わせて入居者数を抑え、一昨年8月の利用率は80%を割り、昨年10月には70%以下まで落ち込んだ。業界では「94%が採算ライン」と言われる。
特養などの入所系の福祉施設は第一種社会福祉事業とされ、社会福祉法人と自治体の占有事業。経営危機に陥った社会福祉法人の救済には同業者しか関与できない。
実は、6月5日の通常国会で介護職員の充実を狙う法改正が成った。改正社会福祉法である。複数の社会福祉法人がグループとなって一般社団法人の「社会福祉連携推進法人」を創設できるとし、事業目的のひとつとして第125条に「社会福祉事業の従事者の確保と研修」が謳われた。
グループ化で奏功した先駆例が京都にある。京都市内の3法人が2010年に「グループ・リガーレ」を結成し、その後8法人に増え、12年に本部を兼ねる総合ケアセンター「きたおおじ」を大徳寺隣接地に建てた。
「きたおおじ」を運営する社会福祉法人「リガーレ暮らしの架け橋」の理事長、山田尋志さんはグループ化を呼びかけたリーダーでもある。「地域密着特養や小規模多機能型居宅介護を作りたいが、ひとつの法人では難しいのでグループになり、経験のある法人が手助けした。そこで人材の定着やケアの仕組みの共有が最大の課題と考え、採用や研修に力を入れ出した」と振り返る。
8年前に研修専門の担当者を2人置いてグループ統一研修を年間60回実施するとともに、毎週のように各法人を回っている。その人件費は8法人が拠出。昨年4月には採用担当の専任職員を配置し、この4月からは新卒者を加え2人体制とした。
「一般企業と違って社会福祉法人には人材募集の担当者がいないので不安、という声を学生たちからよく聞かされた。これで8法人を賄う体制がとれる」と声を弾ませる。
だが、「きたおおじ」の建設、運営には社会福祉法人の限界を感じたという。各法人から出資する新法人設立を考えたが、資金を外部に持ち出せないという制度の壁に立ち往生。当初は、やむなくグループ内の一法人の施設という形を採らざるを得なかった。新制度の連携推進法人ではその壁が消えた。貸付が事業目的のひとつになった。
連携推進法人が登場してきた背景には、国が掲げる「地域共生社会」の受け皿という要請がある。高齢者ケアや障害者ケア、保育など異なるサービスを「丸ごと」提供する時代を迎えようとしている。そのため大規模化が必要とされ、合併・事業譲渡の前段階としてグループ化が提起された。
足元では、深刻な人手不足への対応策として外国人雇用が増えるのは確実。その採用で連携推進法人の活用が考えられる。新法人の発足は「公布後2年以内」とされるが、急がれるべきだろう。
浅川 澄一 氏
ジャーナリスト 元日本経済新聞編集委員
1971年、慶応義塾大学経済学部卒業後に、日本経済新聞社に入社。流通企業、サービス産業、ファッションビジネスなどを担当。1987年11月に「日経トレンディ」を創刊、初代編集長。1998年から編集委員。主な著書に「あなたが始めるケア付き住宅―新制度を活用したニュー介護ビジネス」(雲母書房)、「これこそ欲しい介護サービス」(日本経済新聞社)などがある。
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