各社、稼働率向上に注力
20年度開設は「未定」多く
2020年3月期の連結決算が出揃った。介護事業を営む各社は軒並み増収となったが、一方で新型コロナウイルス感染拡大による影響などにより減益となった企業も多い。大手各社は、19年度どのような戦略を実践したのか、また、20年度の事業計画の見通しをどう捉えるのか。10社をピックアップし、売上や利益の変動の要因などを探る。
ニチイ学館
訪介拠点を新設 上場廃止を予定
▼ニチイ学館(東京都千代田区)は、12期連続で過去最高売上高の更新となった。介護事業セグメントは増収減益で、売上高は前年度比1.6%増の1537億9600万円、営業利益は同3.2%減の158億5700万円。
在宅系介護部門では、人材確保・定着および中重度対応の強化に加え、地域包括ケアシステム構築に向けた戦略の一環で、訪問介護拠点の分割新設によるサービス供給体制の再整備を推進。20年3月末で訪問介護拠点402拠点の分割・新設を行い、1405拠点となり、それにともなう先行投資により減益となった。
同社は5月より、米国の投資会社ベインキャピタルの協力でMBO(経営陣による買収)を実施している。公開買付者の完全子会社になるため、上場廃止となる予定。
SOMPOホールディングス
コスト削減奏功 社外向け事業も
▼SOMPOホールディングス(東京都新宿区)で介護事業を担うSOMPOケアグループは増収増益。売上高が前年度比3.7%増の1284億1200万円、営業利益が同49.4%増の124億6000万円。
入居率改善・生産性向上によるコスト削減が奏功した。同社がメッセージおよびワタミの介護を買収した2015年には低迷していた入居率をV字回復させており、そんぽの家92.4%、そんぽの家Sは94.0%、ラヴィーレも88.5%まで伸びている。
今後注力する事業は、介護事業者向け運営コンサルティングやサポートを行う「ビジネスプロセスサポート」、およびデータ活用による科学的介護の実現を目指す「SOMPOケア リアルデータ経営」の2つ。社内外への新たなサービス提供やシステム構築を促進し、業界をけん引する。
ベネッセスタイルケア
ドミナント拡大 新エリア進出へ
▼ベネッセホールディングス(岡山市)の介護・保育事業は増収減益。売上高は1229億1400万円で前年度比5.0%の増収だったが、営業利益は113億7400万円と同0.2%の減益となった。
増収の主な要因は、高齢者向けホームおよび住宅数を前期比で8ヵ所拡大、入居者数が増えたことによる。一方、販売費や求人費用の増加などにより営業利益は微減となった。
次期の業績見通しに関しては、新型コロナ禍を受けてグループ全体で「未定」としている。
介護・保育事業では新規入居検討時のホーム見学制限など営業活動縮小の影響が懸念材料。3月と4月において入居相談や見学が前年比で70〜80%減少している。中長期戦略は維持で、ハイエンドホームの強化やドミナント戦略の拡大と、未開設エリアへの進出を図る。また「人財育成」の強化を掲げている。
ツクイ
高い加算取得率 HD体制移行へ
▼ツクイ(横浜市)は増収増益。売上高は前年度比5.6%増の911億9600万円、営業利益は同2.8%増の42億4000万円。
デイサービス事業では新型コロナ感染拡大による利用控えの影響があったものの、第2四半期以降の利用率および顧客数が伸長したことで売上増となった。
各種加算の取得も進めており、中重度者ケア体制加算の算定率は77.6%、個別機能訓練加算Ⅰの算定率は31.5%、個別機能訓練加算Ⅱの算定率は73.2%。さらに、ADL維持等加算の全デイ事業所取得に向けた準備を進めた。
在宅事業では訪問看護サービスを起点とした医療連携を推進。訪問看護事業所8ヵ所を開設し、収益の向上を目指していく考えだ。
また、10月に持株会社体制へ移行するとともに、「ツクイホールディングス」に商号変更することを決定。社長には津久井宏氏が就任する。
ユニマット リタイアメント・コミュニティ
新規施設は堅調 地域ケア強化へ
▼ユニマット リタイアメント・コミュニティ(東京都港区)の介護事業セグメントは増収増益。売上高は前年度比5.2%増の501億1100万円、営業利益は同0.1%増の51億8800万円。既存施設の稼働率および入居率が向上したことに加えて、新規施設の売上が堅調に推移した。
また、19年4月に食事宅配サービスを開始、6月に開設した介護保険デイサービスと保険外リハビリサービス、就労支援を組み合わせた同時一体施設「ウェルビスタ ケアスタジオ」のほか、11月にはがんや難病の看取りに特化した複合施設の開設など、新規事業を推進した。
今後は、複合型介護施設をはじめ、定期巡回・随時対応型訪問介護看護サービスの開設を引き続き推進。また、在宅ホスピス事業や食事宅配サービスの充実で、地域包括ケアシステムの構築を実現していく。
セントケア・ホールディング
訪看16ヵ所開設 AI活用に注力
▼セントケア・ホールディング(東京都中央区)は増収減益。売上高は前年度比5.0%増の431億6700万円、営業利益は同25.0%減の14億6800万円。
訪問看護の新規営業所を16ヵ所開設したことで、利用者増により売上を大きく伸ばした。一方で、新規営業所の開設に向けた採用により人件費が増加したほか、グループホームにおいては、主に外注派遣にかかる費用が増加。これを踏まえ採用サイトをリニューアル、外国人採用についても推進した。
そのほか、中重度者ケアにシフトし、特定事業所加算取得に注力。訪問介護では全拠点の98.5%、居宅介護支援では全拠点の61.5%が加算を取得した。
20年度は、同社のグループ会社で開発中のAIケアプランの活用に取り組む。また、地域における医療ニーズへの対応力などを高め連携を図る事業戦略「コミュニティNo.1拠点」を掲げ、新規開設を抑え収益基盤を改善する方針だ。
なお、4月1日、取締役事業支援本部長の藤間和敏氏が新社長に就任。
ソラスト
M&A執行加速 ICTも重点に
▼ソラスト(東京都港区)の介護・保育事業セグメントは増収増益。売上高は前年度比31.9%増の370億1100万円、営業利益は同20.2%増の22億4600万円。
介護事業においては、18年〜19年に買収したオールライフメイトやなごやかケアリンクが売上・利益成長に貢献した。新型コロナ禍でデイサービスを中心とした利用減、感染拡大防止費用の発生などの影響も受けたが、稼働率の向上、利用者数の増加、人材定着率の改善、採用の効率化に努めたことで黒字となった。
19年度は8件のM&Aを行った。なお、20年度は、20年3月に実施した恵の会の子会社化を含め、20年度の新規M&Aによる年度内寄与額の業績目標として42億円を予想。今後もM&A執行体制の強化およびICT活用・強化を重点施策に打ち出していく。
シップヘルスケアホールディングス
入居率98%超維持 食事提供事業化も
▼シップヘルスケアホールディングス(大阪府吹田市)のライフケア事業は増収増益。売上高は239億2900万円で前年度比1.8%増となった。営業利益は同8.9%増となる17億7000万円。増収増益の主な要因としては、各施設の高稼働率を挙げている。
20年2月にグリーンライフは、グループ会社である酒井医療の介護福祉事業部門よりサ高住など6事業所を承継した。
21年3月期までのグループ中期計画でライフケア事業では、▽全国施設の一体経営強化や地域交流の推進・入居プランの多角化等を通じた入居率98%以上の維持▽教育研修の充実▽外国人技能実習生の受け入れなどによる人材確保――を目標に掲げる。フード事業では、新たな高齢者施設向け食事提供サービスモデルの事業化を図り、収益機会を拡大する。
ヒューマンライフケア
高稼働率で増収 RPAの強化も
▼ヒューマンホールディングス(東京都新宿区)の介護事業セグメントは増収減益。売上高は前年度比3.3%増の102億4200万円、営業利益は同27.0%減の2億9900万円となった。
デイサービスや小規模多機能型居宅介護施設における適正人員の配置や、前期より開始した認知症予防プログラムの提供などサービスの向上を図ったことにより、稼働率が上昇。また、前期に開設した施設の利用者数が順調に推移したことから増収となった。
今後は、小多機、GHは拡大戦略を継続。デイは食事や日用品などの配送、機能訓練や認知症予防プログラムのオンライン配信など、自宅での生活支援機能の強化により、他社との差別化を図る方針だ。
また、同グループの主力である人材関連事業については、RPAの販売・導入支援や運用人材の育成ニーズに対応する「RPA Tech Lab」を新規開設するなど、RPA営業強化に注力した。
ケアサービス
在宅基盤を拡大 中国事業停滞も
▼ケアサービス(東京都大田区)は増収減益。売上高は前年度比1.7%増の90億5500万円、営業利益は同45.6%減の1億2200万円。介護事業およびエンゼルケア事業は増収により売上総利益は増益となったものの、サ高住事業譲渡や人件費を含む経費増加により減益となった。
同社は東京23区を中心としたドミナント戦略を加速。19年7月にひだまりを子会社化、20年2月にはクレアバーグより訪問看護事業を譲受するなどして、在宅介護事業基盤の深耕拡大を実施。一方、事業集中のため19年12月にサ高住事業を関東サンガへ譲渡した。
中国事業では、介護およびエンゼルケアサービスの提供について、新型コロナの影響による外出自粛や営業停止措置を受けて事業が停滞。しかし、一部の葬儀場で業務を施行しており、需要は確実に拡大すると見込み、受注を継続する方針。
19年には、介護施設紹介サービス「住まいの架け橋」を開始。20年度は、「産業ケアマネ」構想による仕事と介護の両立支援コンサルティングサービスなど、周辺領域での新サービス展開にも注力する。
ニチイMBOは業界の象徴か 千葉 明氏
第4四半期に新型コロナウイルス感染拡大の影響を強く受けたところが少なくない。全産業で3月初旬より株価が低迷、もちろん介護関連銘柄も同様の値動きとなった。注目すべき企業や今後の予想などについて、経済評論家の千葉明氏に話を聞いた。
今回の決算では、とくにニチイ学館に注目した。5月よりMBOを目指しTOBを行っており、6月22日だった締め切りを延長するなどしている。おそらく最終的には、創業家が保有する株式を手放し、TOBが成功した段階で相続に入っていく、つまり相続税対策なのだろうが、業界最大手の同社によるこの動きは、創業者運営が多く残る介護業界におけるひとつの象徴的な出来事になるのではと考える。
また、3月にIPOを果たしたリビングプラットフォームは、公開公募価格3900円に対し、初値は3550円と下回った。4月初めには1632円まで下がり、現在は3320円まで戻ってきているが公募価格にはおよばない。介護のほかに保育・障害者支援を手掛ける興味深い会社なのだが、時期が悪かったと言える。
今後、新型コロナの収束が見えてくると、製造業などは30度ほどの角度で回復していくだろう。しかし、介護はそれを下回るスピードではないかと見る。本来であればもっと買い戻されてよいはずなのだが、厳しい受け止め方をされている業界だ。難しい局面を各社がどう乗り越えていくのか、注目したい。
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