長期化、介護業界に不安
新型コロナウイルス感染症の拡大が再び脅威となっている。第1波に続き、「介護クラスター」のリスクに加え、経営悪化や入居者・利用者の心身へのストレス増大など、深刻な影響を介護業界に及ぼしかねない。この危機を乗り越えて「アフターコロナ」の時代に進むために介護事業者に必要なイノベーションや見識を検証する。
「収束のイメージが見えてこない」。公益社団法人全国老人福祉施設協議会(東京都千代田区)の「新型コロナ対策チーム」を率いる木村哲之副会長はそう語り、厳しい表情を見せる。
全国老施協では3月に名古屋市内で発生した介護施設でのクラスター感染の直後から、会員施設に対して迅速に情報を提供し、警戒を呼びかけてきた。各都道府県の老施協によるネットワークを生かし、対策事例や行政による対応なども情報共有。感染の全国的な拡大を受け、3月下旬に全国老施協として「新型コロナ対策チーム」を立ち上げた。
早すぎる「次の波」
木村副会長は「地震など自然災害で相互に支援するケースはこれまでもあったが、感染症が原因でかつ今回のように全国規模に広がった『災害』への対処は極めて異例。会員施設からは、厚生労働省の事務連絡に関する解釈への疑問から、マスク、消毒液、防護用品など衛生物資の不足を訴える声まで、問い合わせなどが多く特別チームを立ち上げた」と経緯を振り返る。特に1法人で1施設だけを運営する事業者の場合、物資やスタッフをグループで支援できる大手事業者と異なるため、各都道府県の老施協が中心となって支援を実施。茨城県老施協会長を務める木村副会長も、並行して地元対応に取り組んだ。
緊急事態宣言下で全国老施協では、面会「禁止」措置などを通じた水際対策での感染防止を推奨する一方、入居者や職員の心身に対する影響への注意を喚起。インターネットを活用したオンライン面会方法の紹介や、職員の心理的ストレスへの配慮などに関しても情報を積極的に発信。
「施設管理者向けマニュアル」などを制作・配布することにも努めてきた。
5月末までに全国で緊急事態宣言が解除された後は、段階的な面会再開方針などを示すとともに、国の第2次補正予算事業を活用し、高齢者介護施設などで新型コロナ感染症が発生した場合に用いる各種防護用品等を調達。各都道府県(政令都市)の老施協・デイ協などに配布・備蓄を進めている。
「6月の全国老施協補正予算で措置された『広域感染症災害救援事業』の一部で、セットの内容は、防護服、ゴーグル、フェイスシールド、手袋、マスク( サージカルマスク、N95マスク)、シューズカバー、消毒液、非接触型体温計を持ち出ししやすい箱形バッグにセットしている」(木村副会長)。さらに、全国老施協として感染防護用品などの在庫状況の情報を把握し、都道府県の老施協等や各会員へ伝達している。
ところが小康状態は長く続かず、再び全国的な感染拡大が明らかに。新型コロナ対策チームも警戒を強めている。とりわけ、介護従事者には長期にわたって緊張状態が続いていることから、新たに介護従事者向けのこころの相談窓口を展開していくことや、発生時の対応について参照できる動画を作成する予定としている。
「水際対策を第一にクラスターを絶対に起こさないことなど、基本姿勢に変化はなく、春先に比べると衛生用品の確保も比較的容易だが、長期化への不安、さらには入居者のフレイルなどの対応も深刻な課題だ」と木村副会長は説明する。
第1波と違い、都道府県が独自に対応方針を策定している中で、メリットもあるが高齢者施設への指導や対応が異なり、地域別の対応が必要なケースも増えている。「例えば介護職員へのPCR検査などは、自治体によって対応に、いまだにばらつきがある。高齢者の感染リスクを考えれば医療関係者と同レベルの厳重な体制が必要だが、一般の人と同様の扱いしか行わない自治体もある。介護・福祉施設の職員が、体調不良を感じて受診した際は、すぐに感染を疑ってPCR検査を実施する体制になれば、施設内での感染拡大、クラスター、介護崩壊は防げるのではないか」と厳しく指摘する。これは木村副会長自身の現場経験からの切実な問題提起だ。
「これまでは現場の努力で持ちこたえているが、介護現場が崩壊すれば、医療崩壊に直結する。その重要性に鑑みた対策を国にも求めていきたい」(木村副会長)。
イノベーションで経営基盤の強化を
6月に成立した第2次補正予算で、厚労省はおよそ5兆円の新型コロナ対策の関連事業を打ち出した。介護職員への慰労金に注目が集まったが、当初は今秋以降と見られていた感染流行の「次の波」の到来を見越して、ICTや施設整備などを含め感染対策や経営基盤の強化を図ることを求める趣旨だった。
しかし、8月1日時点で感染者数は第1波を上回るペースで増加。介護事業者は厳戒態勢のまま、日々の施設運営に就いている。緊急事態宣言の解除、平常への復帰、安定経営への軌道復帰……そんな前向きな「アフターコロナ」への期待は裏切られつつある。だが、ここで警戒を解くわけにはいかず、不透明な社会情勢への対応が各事業者に求められている。
第2次補正予算では、介護分野における効果的な感染防止などへの支援事業として2億3000万円が計上された。具体的には
①介護事業所の感染防止のための相談・支援事業
②感染対策のマニュアル提供や専門家による研修など感染症対応力向上事業
③介護サービスの類型に応じた事業継続計画(BCP)作成支援事業
④職員のメンタルヘルスに関するセルフケアのためのガイドライン作成や専門家による相談支援
などが対象だ。
新型コロナウイルス感染症緊急包括支援交付金(介護分、4132億円)に盛り込まれた、介護職員に対する慰労金の支給も、8月に入り都道府県で本格的に始まった。新型コロナ感染症が発生、または濃厚接触者に対応した施設・事業所で勤務し、利用者と接する職員には20万円、それ以外の施設・事業所に勤務・利用者と接する職員には5万円が支給される。
経営基盤強化のための施策では、ICT導入の加速化支援、地域医療介護総合確保基金を活用した介護ロボット支援が大幅に拡張されており、ピンチをチャンスに変える前向きな発想の転換が求められている。
「アフターコロナ」とはいかなる時代で、いつ訪れるのか。それを見通すのは現時点では難しい。ただ、少なくとも「新型コロナウイルス以前の日常への回帰」ではなさそうなことは、誰もが感じ始めているだろう。次の波を乗り越える知恵やイノベーションを生かす姿勢が試される。
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