社会福祉法人カメリア会(東京都渋谷区)の特別養護老人ホームカメリア(同江東区・ユニット型、110床)の施設長で同法人の理事を務める黒川博史氏は、江東区で感染クラスターが発生した特養「北砂ホーム」の施設長の体験談を聞き、戦慄が走ったという。
「施設長の語る現実に、今までの対策の甘さを痛感しました」。そこから第2波を見すえ、対策の強化に乗り出した。同法人施設での新型コロナウイルス対策について振り返りつつ、第2波への備えについて話を聞いた。
感染経路を断つ現場の取り組み
施設には特養のほか、ショートステイ(20床)、グループホーム(18床)、デイサービス(定員40名)が併設されている。それゆえ、感染が発生すれば即座にメガクラスターとなりうるリスクと隣合わせだ。黒川施設長は「現場は常に臨戦態勢です。皆、『いつここで感染が起こってもおかしくない』という気概でいます」と、張り詰めた日々について語る。
法人では3月より新型コロナウイルス対策に乗り出しており、ウイルスを施設へ持ち込まない、拡散させないための対策を徹底している。
職員が現場に出る前には、フェイスシールド及びマスクはもとより、頭髪を覆うキャップ類も着用し、履物の底を入念に消毒、仕上げに再度手を洗った後、業務開始となる。特に、頭髪はウイルスなどが付着したままになりやすいが、通勤後に洗髪を行うことは難しい。そのまま業務に当たると抜け毛からウイルスが拡大する危険がある。
業務中はフロア間の職員の移動を極力減らしており、荷物の受け渡しにエレベーターを利用する、職員同士の会議はタブレット端末を使うといった対応をしている。移動が避けられない場合は、所定の場所で割烹着を着用する。衣服にウイルスが付着した場合に、それを拡散させないことが目的だ。
さらに、クラスター発生のリスクを回避するため、5月からデイ休止に踏み切っている。それに当たって、4月よりデイ利用者への代替サービスの提案などの準備を開始した。
事業所では利用者に対し、電話による安否確認サービスの提案などを行った。これは、4月7日に厚生労働省が、「通所系サービスは休業中、電話で利用者の安否確認をすることで介護報酬を算定できる」とした特例措置を受けての実施であった。「正直、これは利用者にとっても納得できるものとは言い難いと思っています。積極的に提案するにはためらいがありましたが、考えられる最善の方法として利用しました」。
現場ではこれら感染症対策の負担が重くのしかかっており、未だ終息の目途が立たない現状に、職員達は暗澹たる思いを抱えながら過ごしている。幸いにもこれらの水際対策により、現在まで感染者は出していない。
「認識が甘かった」 至急対策を強化
しかし、黒川施設長は「対策はまだまだ不十分です」と警戒心を緩めてはいない。その理由は6月中旬に行われた江東区の施設長会にて、クラスターが発生した「北砂ホーム」の施設長の実体験を直接聞いたことだという。「北砂ホームで対応に苦慮した点を踏まえ、カメリア会では第2波の備えとして、法人内の応援体制の明確化、対応窓口の1本化を決めました」と黒川施設長は言う。
応援・対外対応の体制見直し
応援体制については、法人内で協力をする取り決めはあったが、具体的に何名を手配するかについては決まっていなかったため、「各施設から3名ずつ計15名」という明確な人数を設定。合わせて支援に向かう職員の条件として、
▽一人暮らし
▽通勤に公共交通機関を使用していない
▽若くて持病がない
――を定め人選を済ませている。
応援職員の宿泊場所は職員寮のほか、近隣のホテルの部屋を確保した。
窓口の1本化では、電話回線を2〜3回線に絞り担当者数名で対応する方針とした。担当者への情報集約には専用のホワイトボードを用い、感染者の容態などの報告をそこに時系列に沿って書き込むこととしており、書き込む項目も決められている。
電話の内容についても、緊急性を要するものから誹謗中傷まで様々だ。それらに対して、電話対応マニュアルの構築を進めている。「対応に焦ってしまい、不確定なことを口走ると取り返しがつかない事態に陥りかねません」。
家族の協力必須、理解を得るには
当初、「季節性のウイルス感染症と同じく、夏になれば新型コロナ感染症も終息する」と楽観論もあった。しかし、現実には今まさに第2波が到来したと言っても過言でないと黒川施設長は危機感を強めている。さらに、7月22日には「GoToトラベル」キャンペーンが開始されたこともあり、職員には、「家族を巻き込んだ感染防止対策」を呼びかけている。
「同居家族がPCR検査で陽性となったため、出勤できないという例を多く聞きます。職員への注意喚起だけではどうにもなりません」
カメリア会の施設では同居家族が旅行から帰ってきた職員に対して、2週間自宅待機の措置をしたこともあったという。「ここまでのことは当施設ではしていませんが、今後必要になるかもしれません」。しかしながら、職員家族への協力を求めるのは、各々の職員による説得が頼みの綱となっている。
黒川施設長は「インフルエンザのように、現場にワクチンが行き渡るような状態になれば安心できるのですが、まだまだ先の話でしょうね」と諦め交じりに話す。緊迫した日々に終わりは見えない。
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