日本福祉サービス
高齢者住宅の施設長というと、経験豊かなベテラン社員が就くイメージが強い。しかし、日本福祉サービス(大阪市)が大阪府池田市で運営するサービス付き高齢者向け住宅「さくらヴィラ池田」の今村早和華施設長は新卒で入社してちょうど1年という速さで就任した。
早期での就任の狙いや、それを可能にした同社の人材育成術などについて話を聞いた。
新卒2年目で施設長 日本福祉サービス
大学で福祉を専攻しており、介護・福祉業界志望で就職活動をしていた今村施設長。日本福祉サービスに就職したのは同社白﨑剛士社長の「熱量の多さ」に惹かれたからという。
正社員の離職創業以来ゼロ
「就職説明会などで、他の会社が『介護の仕事は大変』『休みがなかなか取れない』など自らネガティブな言葉を口にする中で、白﨑社長は、そうしたことは一切語らずに、自分の想いや、今後会社をどうしたいかなどの前向きな話に終始していました」白﨑社長の熱量の多さの理由は、2003年から身を置いてきた介護業界に対する強い問題意識がある。
若手社員のモチベーションに
「介護業界を志す新卒学生には、介護に対する熱い想いや希望があります。それなのに多くが短期間で離職してしまうのは、会社がその想いに応えられずに、希望が絶望に変わるからです。『いかに彼らのモチベーションを高いままに長期間持続させるか』を13年の独立起業以来経営の柱としてきました」。
そのために同社が取り組んでいるのが「働きやすい環境」と「キャリアアップ」だ。前者については「残業ゼロ」「有給休暇取得100%」などにより創業以来正社員の離職ゼロを実現している。
後者については「飲食業界などでは新卒入社後数年で店長になることも珍しくない。それが若い社員に自身の将来像を描きやすくさせ、モチベーションを引き上げている」との考えの元、他産業並みの速さでの施設長育成を目指してきた。
19年入社の今村施設長は同社の新卒採用1期生。この年は8人が入社したが、社は「全員を2年目で施設長に」との目標で教育研修を実施してきた。結果として今村施設長が第1号となり、その後もう1人施設長が誕生している。
本当に必要な仕事は何か
同社はなぜ入社2年目で施設長となる人材を育成できたのか。それは「施設長に求められる能力を細かく分析し、その部分を徹底的に教育した」点にある。
白﨑社長が語る。
「施設長になるのに長い年月がかかっているのは『施設長に何でも任せすぎ』だからです。施設長でなくてもいい仕事は本社などでフォローし、施設長には施設長の仕事に専念してもらえばいいだけのことです」
同社では、「施設長の仕事は『現場のスタッフのマネジメントと、利用者への適切なケア提供体制の構築』」と考え、施設長候補者には入社後、その部分を徹底して教育してきた。今村施設長が語る。
「入社した年の5月に、オープン間もない『さくらヴィラ池田』に配属になり、異動することなく1年間現場で介護業務を行うとともに、全てのスタッフと理想のケアの方法などについて徹底的に対話をしてきました」。
そして、こうした全スタッフとの対話の経験が、今村施設長就任が発表されたときのスタッフからの「今村さんが施設長なら私たちは大歓迎。みんなで応援します」との声につながったという。
「現場のスタッフが施設長に求めるのは『自分たちをいかに理解してくれているか』だけです。『数字に強い』『広報力がある』などは一切求めていません。しかし、これまでの介護業界は、そうした能力も重視してきました。その結果として、事務室でパソコン作業ばかりしている施設長を生み出し、現場とのコミュニケーション不足、離職の増加につながっていたのではないでしょうか」(白﨑社長)
同社は今年4月、7月に大阪府豊中市でサ高住を開設。今年秋と来年にも北摂で新規開設を控えている。これらの住宅もなるべく早く今村施設長と同期の、または今年4月に新卒入社した6人の中から施設長になってもらう考えだ。
1983
新ホーム長を社内選挙で 1983
大阪市のサービス付き高齢者向け住宅「一家団蘭あさひ」(運営・1983/同)では、家長(ホーム長)をスタッフや利用者の選挙により選出するユニークな取り組み「IDA9総選挙」を初めて行う。
立候補資格があるのは同社の正社員9人。入社年数などは不問。すでに立候補の受け付けは終了しており、取材日(※7月30日)時点では、3人が立候補を表明しているという。8月9日から11月20日までが選挙期間となる。投開票は11月24日。期日前投票日も設ける。投票権を持つのは、同社スタッフ(社長・取締役・アルバイト・パート含む)及び入居者で総勢51人。
ポスター掲示など本格的に
候補者のポスターをホーム内に掲示したり、有権者に向けて「理想の家長像」について発表する演説会を行ったりと、本物の選挙さながらの活動もあるが、基本的には日々の業務の様子が有権者への最大のアピール材料となる。
当選した「新家長」は「一家団蘭あさひ」の開設2周年となる今年12月1日に就任予定。なお、投票用紙には「該当者なし」という選択肢もあり、「該当者なし」が1 位となった場合には、現在の部長が家長を兼任するという。
今回の取り組みの狙いについて1983の看舎桂太社長は次のようにコメントする。
「『社長など上層部の指名・指示によるものではなく、スタッフや利用者から支持されている人を家長に選んでみよう』というアイデアから実行することにしました。当選のためには『社内営業』も大切になりますので、私を含めた上司への『報・連・相』が徹底されるなどといった効果についても期待できます」
「また、立候補したものの、残念ながら当選に至らなかった場合には『自分には何が足りなかったのか』を学ぶことになりますから、結果的に自身の成長につながります」
同社では、今後の家長選びについては、この「選挙方式」を標準的な手法としていく考えだ。
1983は、看舎社長ら高齢者住宅入居相談事業を手がける若手経営者が「自分の理想とする高齢者住宅を運営しよう」と立ち上げた。「一家団蘭あさひ」は居室数29。保険外サービスへの注力などが特徴だ。
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