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 2021年度の介護報酬改定に向けて、各団体からのヒアリングが3日と19日に社会保障審議会介護給付費分科会で行われた。各業種は今回改定に何を求めるのか、また現場の状況はどうなっているか。今回は、日本ホームヘルパー協会(東京都港区)の青木文江会長に話を聞いた。

 

 

―――訪問介護の現状をどう見ますか。
青木 19年度の訪問介護事業所の倒産件数は過去最多でした。人材不足、ヘルパーの高齢化も課題です。そして今回のコロナ禍もあり、経営が厳しい事業所が増えるのではないかとの懸念があります。全国の自治体で温度差があるので一概に言えませんが、風評被害も報告されています。このままでは、地域包括ケアシステム自体が成り立たなくなる。ホームヘルパーの重要性と専門性を社会的に評価していただきたい、と強く思っています。報酬を上げることも重要ですが、私自身はホームヘルパーの仕事の理解、存在が社会的に広く認知され、新規の雇用につながる方向を望んでいます。

 

 

 

―――介護給付費分科会のヒアリングでサービス提供責任者(サ責)への加算創設を提案されました。
青木 サ責の業務とは、

▽訪問介護計画の作成や変更

▽訪問介護の利用申し込みの調整

▽利用者の状態の変化や意向の定期的な把握

▽サービス担当者会議への出席

▽介護支援専門員との連携

など、事業所運営で重要な役割を果たしています。

 

ただ、私たちの独自調査では、サ責担当者の全体業務時間のうち訪問業務が占める割合は4割程度にもなっています。この問題の背景は人材不足もありますが、サ責の本来業務に報酬単価が設定されていないことに一因があるのではないかと分析しています。

 

 

 

―――サ責の業務は事業所運営に必須で、ケアマネジャーと同等の重さに感じます。
青木 訪問介護の事業所は中小規模が多く、専任の事務職員を置けないことが多いです。その点でもサ責の果たすべき役割は大きいのです。例えば19年度には「介護職員特定処遇改善加算」が創設されましたが、申請や導入にかかる事務手続きの煩雑さ、事業所内の新たな体制整備に対応する余裕がないなどで加算していない事業所が半数以上です。

 

 

 

―――人手不足から始まり、日常業務で手一杯な感じでしょうか。
青木 そうした側面もありますね。今回の要望では、生活機能向上連携加算の見直しも求めています。在宅リハビリを行っている利用者の成果は顕著で、リハビリを通じた自立支援・重度化防止の効果は広く認められています。その点で、18年度改定の加算引き上げは私たちも評価しています。しかし、取得率は私たち訪問介護だけでなく全体に、非常に低いのが実情です。取得率が低い要因としては、やはり書類作成などの負担が大きいといった現場の声があります。加算の単位数を見直すか、サ責の業務負担を効率化するか、何らかの対応が必要だと考えています。

 

 

 

―――要望中、「自立生活支援・重度化防止のための見守り的援助」(老計10号「1―6」)の確実な実施についての保険者への再周知、との項目があります。
青木 当協会では19年度、「自立生活支援・重度化防止のための見守り的援助に関する調査研究」を実施し、介護支援専門員(274名)、訪問介護員(358名)を対象に老計10号「1―6」の効果測定を行いました。その結果、利用者側は意欲向上や日常生活の安定、機能の維持などにつながっていることが分かり、また訪問介護員側でも利用者の状態が良くなるなどを実感する中でモチベーションアップ、さらにはサービスの質が向上していることが確認できました。事業所経営にも、身体介護の単価で算定できる点でプラスに働いています。しかし、「市区町村が認めていない・ケアマネの理解が得られない」といった自治体などによって取り扱いに差がある実態も分かりました。この制度の主旨や効果が理解・周知されるよう、国から都道府県や市区町村、また利用者や家族に伝えていただきたいと考えています。

 

 

―――訪問介護の意義や必要性への理解につながる課題ですね。
青木 協会としては、「自立生活支援・重度化防止のための見守り的援助」について、重度化を抑え、将来的な給付抑制にも資すると評価しています。訪問介護サービスとは、利用者の生活に密接に関わり、本人の意欲や生活機能、社会性などに合わせ継続的にサポートしていくものです。これは自立支援・重度化防止という介護保険制度の基本理念にも通じています。

 

 

自治体 理解不足も

―――先ほどの生活機能向上連携加算や介護リハビリの重要性も、保険者である自治体側の理解がまだまだ十分とは言えないですね。
青木 厚生労働省でせっかく良い制度の枠組みを作っても、自治体で認めてもらえない、理解を得られないと残念ながら機能しません。ここからは私個人の意見・考えですが、21年度の報酬改定は、単なる報酬額の向上だけでなく、既存制度の使い勝手の見直しや趣旨の周知、現場のやりがいの向上など直接お金に関わらない部分でも良い方向につなげていただきたいです。

 

 

 

介護の『3K』は『希望・向上・感動』

―――介護給付費分科会でも訪問介護のやりがい、仕事の魅力を伝えることを訴えられていました。
青木 本当に訪問介護現場の人材不足は危機的な状況で、養成研修に人が集まらない、求人を行っても応募者がいないということが多々あります。中には、人材派遣会社に頼んでもヘルパーを確保できないという事業所もあります。21年度改定では是非、訪問介護の本質も考えていただきたいと願っています。私の場合、介護保険制度の導入以前から、この仕事にやりがいを感じて続けています。介護の仕事はマイナスのイメージで「3K」と言われてきましたが、「そんなことはありません。介護の『3K』は『希望・向上・感動』です」と胸を張って言えるよう、訪問介護を支えていきます。

 

 

日本ホームヘルパー協会の要望ポイント
○ 人材確保や雇用の継続につながる給与設定ができる報酬単価の設定
○ サービス提供責任者が法で定められた業務を全うできるよう加算の創設
 ・通院・通所時のカンファレンスへ参加した場合
 ・緊急時等のカンファレンスへ参加した場合
 ・ターミナルケアで利用者宅を訪問し、心身状況確認、サービス調整を行った場合
○ 医療依存度の高い利用者へのサービス提供に対する加算の創設
 ・ターミナルケア加算
 ・喀痰吸引研修の受講費用の補助など、受講環境整備
○ 生活機能向上連携加算の見直し
○ 日祝日・年末年始などの訪問に、休日加算の創設
○ 新型コロナウイルス対策で、訪問介護事業所への継続支援と感染防止に配慮して行った介護サービス提供に関する加算を創設
○ 「自立生活支援・重度化防止のための見守り的援助」(老計10号「1-6」)の確実な実施について、保険者への再周知
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