老人ホーム紹介のこれから
老人ホームの紹介事業を手掛ける「みんかい」は、老人ホーム紹介会社(以下・紹介会社)と介護事業者がより強固な関係を作れるよう、「みんかいアライアンス」をスタートさせた。加盟企業には、みんかいのノウハウや情報を提供し、紹介業としての組織体制づくりをサポートする。
みんかいを運営するASFON TRUST NETWORK(横浜市)の小嶋勝利常務取締役に話を聞いた。
成約率upの秘訣とは?
---介護保険制度創設に先駆けて、老人ホーム紹介事業を立ち上げられました。今では業界のリーディングカンパニーとして成長を遂げていますね。
小嶋 国内初の老人ホーム紹介を立ち上げて、早20年以上が経過しました。従業員も増え、みんかいを運営するASFON TRUST NETWORKでは123名、グループ全体では170名を抱えています。相談室は現在、1都3県に18拠点、北海道や愛知県、大阪府、福岡県にそれぞれ1拠点、計22拠点構えており、相談員は首都圏だけでも49名配置しています。
全国の有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅、シニア住宅などの運営事業者1500社以上と提携し、総相談件数は年間1万5000件にのぼります。入居後も様々な相談に対応できるよう、家電や家具の処分や不動産業者、士業などとも提携し、生活面の問題をトータルで解決できる体制を敷いています。
---今回、新たに始める「みんかいアライアンス」とはどのようなものでしょうか。また、どのような企業が加盟できるのでしょうか。
小嶋 「みんかいアライアンス」の最大の目的は、加盟した紹介会社に対し、長年、みんかいが培ってきたノウハウを提供し、事業をサポートすることです。
近年、紹介会社は増加の一途をたどっていますが、不動産業者などサイドビジネスで事業展開している企業や零細企業の場合、紹介業を行うために十分な整備が構築できていないことが多く、実際には事業が機能していなかったり、相談者に誤解や迷惑をかけてしまったりしているケースも少なくありません。
もちろん、〝我々のやっていることがすべて正しい〞などと驕った考えはありませんが、20年以上、この業界で飯を食べることができたことは、一定の信用が築けたと考えています。今回のアライアンスを通して、同じ価値観を共有できる仲間作りをしていきたいと考えています。アライアンスでは、事業規模などは問わず加盟は可能ですが、特に、中小零細の紹介会社との協業を意識しています。
〝お手伝いレンジャー〞が機動力
---老舗で大手の紹介会社が20年以上かけて培ったノウハウを外部に提供することは、業界でもインパクトを与えそうです。みんかいのノウハウ、すなわち強みとは具体的に何でしょうか。
小嶋 圧倒的な情報量とそれを共有できる仕組みです。みんかいには相談員のほかに、「お手伝いレンジャー」という名称のスタッフが首都圏だけで約25名おり、彼らが日々現場の声に耳を傾け、情報収集しています。
お手伝いレンジャーは「第一レンジャー」「第二レンジャー」「第三レンジャー」に分かれ、「第一レンジャー」は主に紹介案件の獲得をミッションに、居宅介護支援事業所や地域包括支援センター、病院、役所などに営業活動を行い、みんかいのプロモーションを継続的に実施します。
第一レンジャー経験者の中から選出される第二レンジャーは、不動産業者や士業など異業種の事業者との関係を構築します。
そして最も高度なスキルが求められる第三レンジャーは、老人ホームのマーケティングや個別の老人ホームの営業活動を代行します。普段は、老人ホームなどの現場を回り、情報収集を行っていますが、ホームから依頼があれば、居宅介護支援事業所や病院などに訪問し、個別にホームの営業を代行します。
このようなお手伝いレンジャーの日々の機動力がみんかいの底力となっています。また、顧客情報の厳重管理にも注力しており、紹介会社の中でもいち早くプライバシーマークを取得しています。
---新型コロナ禍におけるレンジャーの活動状況は。
小嶋 緊急事態宣言時、レンジャーたちは自宅待機していましたが、現在は徐々に事業所やホームなどへの訪問活動を再開しています。ホームを訪問すると、「他のホームではどのようなコロナ対策を敷いているか」といった質問が多く寄せられますが、こういった場合もレンジャーの腕の見せ所。レンジャーは複数のホームにヒアリングして、その内容をまとめ、希望するホームに対し無償で情報提供しています。これらの活動は、老人ホーム業界が正しく発展していくために、我々にもできる「お手伝い」だと考えています。ちなみに、お手伝いレンジャーとは、そういう思いを込めて命名したものです。
---高いスキルとフットワークが求められるお手伝いレンジャーは、どのように育成しているのでしょうか。
小嶋 お手伝いレンジャーの多くは、現役をリタイアした70歳前後の元気なシニア世代が中心です。中には、一流企業や大手企業で要職についていた人も在籍しています。多様な社会経験を積んでいるシニア世代は、良い意味でライバル心が強く、またコミュニケーション能力も高い人材が多いです。社内でレジェンドと言われている最高年齢79歳のレンジャーは、10年以上の経験を持ち、事業所スタッフからも非常に慕われています。
ちなみに、お手伝いレンジャー活動は、みんかいで働く現役世代が、定年などを理由にリタイアした場合でも、その後も働き続けることができるように、という目的もあります。
相談室全国に22拠点
---地道な営業活動に専念できる体制を敷いているということは成約率も高いのでしょうか。
小嶋 みんかいの成約率はおよそ25%程度です。多くの紹介会社の成約率は50〜60%だと聞いていますので、決して高いわけではありません。むしろ、低いと考えています。
その理由は、みんかいでは、いわゆる成約見込みの低い相談であっても積極的に取り組み、最後まで相談対応することを業務命令として課しているからです。中には、「月5万円の予算で入居できるホームを探してほしい」というような相談案件もありますが、現実的に考えた場合、このような条件をクリアできる老人ホームはありません。
しかし、困っている相談者に対し、無下に断ることは、高齢者をお客様としている企業としてはNGだと考えています。たとえ紹介するホームが無くても、話ぐらいは聞くことができます。結果、相談者が少しでも楽になり安心できれば、それで良いのではないかと。経営を考えれば儲かりませんが、自らを高齢者介護の社会資源であると自負しているみんかいとしては、当たり前の行動だと考えています。
1500運営事業者と提携
---どんな案件でも対応しているからこそ、情報が蓄積されるのですね。紹介業でカギとなるのは、「情報量」であることがわかりましたが、限られた人員で運営している中小の紹介会社の場合、みんかいのような「機動力」を持つことは非常に難しいのではないでしょうか。
小嶋 その通りです。ニーズに合うホームを紹介するためには、足で稼いだ情報が欠かせません。しかし、少数精鋭企業では、限られた相談員がホームの下調べから営業活動、紹介手数料の交渉、相談業務、ホームへの連絡や紹介手数料の請求までのすべての業務を一人で担うため、直接収益に結びつかない仕事に対し、自分の時間を捻出することはできません。当たり前ですね。したがって、どうしても個人が持っている特定の情報の中でホームを探さざるを得なくなるため、入居後のミスマッチの可能性が、一層高まってしまうのです。
施設情報を共有
---みんかいのように分業化することは難しいのでしょうか。
小嶋 これは経営方針にも関連する話ですが、紹介会社の多くは、歩合制の賃金体系をとっています。したがって、どうしても、初動で相談内容を見極め、効率的に相談業務をこなしていくスキルが求められています。つまり、儲かりそうな相談を選んで仕事をしていくことが目的になってしまいます。さらに、社内の相談員もライバルになってしまうため、たとえ有益な情報が得られたとしても、それを社内で共有する動機は、決して強くはありません。中には、同じ会社の相談員同士で人間関係が悪化してしまうことも少なくないようです。したがって、いくら個人のスキルが高くても、会社全体の経営改善には大きな貢献はできません。
そしてもう一つ、今までの紹介会社は、ネットなどと同じく「検索エンジン機能」があれば、十分にその役割を果たすことができていました。
しかし、最近では、老人ホームを始め、高齢者向け住宅が乱立し、多くのホームが似たり寄ったりで大差が無くなってきてしまいました。つまり、スペックに大差が無いため、単に相談者の条件に合わせて検索することの意味が薄れてきています。そこで重要になってくるのが、多くの老人ホームとの取引実績があり、多くの老人ホームの実態を実際に味わっているという現場の強さです。
例えば、自分はAホームとの取引実績は持たないが、隣に座っている同僚に聞けば、Aホームに紹介した時の経験を聞くことができる。だから相談者に対し、Aホームのことを説明することも可能になっていきます。小規模の紹介会社の場合、できそうで実は、できないことだと思います。
つまり、これらの「情報」「知識」「教養」に関する課題が解決できれば、中小の紹介会社でも成約するチャンスを高めることができると思います。
今回のアライアンスは、みんかいのノウハウを上手く活用してもらい、小規模の紹介会社の抱える課題を解決しながら、「一緒に紹介センター事業の健全発展に寄与していきましょう」というものなのです。
加盟企業の業務効率化 売上2~3割向上も期待
---みんかいアライアンスは中小の紹介会社が手の届かないところをカバーしてくれるということですね。加盟すると、具体的にどのようなメリットがありますか。
小嶋 みんかいの持つ仕組みを利用できるため、加盟企業は営業活動に専念することができます。中でも、一番面倒な業務は、実は老人ホームなどに対する紹介手数料の請求、着金確認業務です。「紹介業」と言う概念であるため、業界の慣例で請求書を出す前に、紹介したホームをお互いに確認する意味を込めて「確認書」を紹介先ホームに提出します。そして、確認書の内容に相違ありません、というやり取りを完了した後、改めて請求書を発行し、紹介手数料の支払いを受けるということになっているのです。
みんかいアライアンスに加盟していただいた場合、この業務は全てみんかいが代行することになります。もちろん、一定の費用は発生しますが、コストを考えれば業務の効率化は、間違いなく図ることができます。
さらに、相談から紹介先が思い当たらないケースでは、みんかいが情報支援するため、今まで対象外だったホームに紹介することも可能になります。また、困難事例などの場合は、相談者に対し、みんかいを紹介していただき、みんかい相談員が対応することも可能です。
老人ホーム業界特有の制度として、一部の老人ホームでは、紹介料を一時的に値上げする「キャンペーン」と言う制度を活用しています。紹介会社がこれだけ多くなると、全ての紹介会社に、キャンペーンが提供されるということは不可能です。しかし、みんかいアライアンスに加盟していただければ、みんかいが取得しているキャンペーンを活用していただくことも可能になるため、アライアンス企業の売上増にも貢献できるはずです。
---紹介手数料については大手と中小の紹介会社で差はありますか。
小嶋 キャンペーン制度などで一時的な変動はありますが、みんかいの統計では首都圏の有料老人ホームの場合、25万円〜30万円が平均値のはずです。また、紹介手数料は、中小ホームよりもホーム数が多い大手老人ホームの方が、比較的高めに設定されていると思います。
---コールセンターも持っているようですね。
小嶋 コールセンターでは相談員のサポート業務と老人ホームの受電、架電代行業務を行っています。コールセンターには、約10名のスタッフを配置しています。相談者から相談員宛に連絡があった場合、業務管理システムにて相談員のスケジュールを把握しているため、状況に合わせ、取次や伝言受付などの対応をしています。
ホームの受電代行は、日々の受電代行はもとより、土日祭日だけの代行や、資料請求を求める相談者に対するホームパンフレットの送付代行も実施しています。
アライアンス加盟企業には、このコールセンターサービスもオプションで使用できる環境を整える予定です。小規模紹介会社の場合、相談員が相談対応などをしている間の面倒な電話対応などをコールセンターに委託することで、相談業務に専念することができると思います。
相談員をサポート
---ノウハウ提供から相談員のサポート体制まで整っていると、立ち上げたばかりの紹介会社でも安心して事業を始められますね。加盟する場合、料金体系は。
小嶋 会費制にする予定です。定額制にするか歩合制にするかは現在検討中です。さらに、アライアンス加盟企業には、みんかいが定期的に実施している研修会、勉強会などへも参加していただき、知識と情報を共有していただきます。
少額のコストでみんかいの資源を活用でき、紹介業のために万全の体制を整えることができれば、中小紹介会社の場合、2〜3割の売上向上が期待できるのではないかと思っています。
経営資源の有効活用
---今年6月、業界団体が紹介会社の届出制度を開始しました。サービスの質や実績などが問われることになりますが、みんかいアライアンスが目指すべき方向と重なりますね。
小嶋 紹介業は、先行投資も少なく、相談員の経験さえあれば、誰にでもできる仕事です。しかし、誰にでもできる仕事だからこそ、従事している人たちのモラルや道徳心、更には人間性が問われる仕事だと思っています。介護と同じですね。医療は人間性よりも知識や技術、経験が重要ですが、介護は知識や技術も重要ですが、何よりも人間性が求められている仕事です。だからこそ、ルールで縛り、無理やり「型」にはめるのではなく、同じ考え、同じ価値観を持った企業同士が、自分らしさを残しながら、協力できることは協力をして、限りある経営資源を有効に活用、共存共栄を図っていくことが重要だと考えています。
ウィズコロナでは、多くの業界では、偽物やまがい物は淘汰され、本物しか生き残れなくなっていきます。今回のアライアンスをきっかけに、価値や志を同じくする紹介会社同士が手を取りあうことで、業界のさらなる発展に貢献できると思っています。
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